「命の差し入れ」金子差入店 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
命の差し入れ
幼女を殺害した小島が語る二割の働かない蟻の話。どんな社会でも必ずルールからはみ出す人間は存在して、そんな人間は生きる価値はないのかと問いかけてくる。
真司の母容子はどうしようもない母親で真司は忌み嫌うが妻の美和子や叔父の星田は生きているだけでもありがたいとして彼女をかばう。
美和子の両親はすでに他界しているのだろう。生きてる間しか親孝行できないからと何かと容子に気遣う。星田も今自分が甥の家族と暮らせるのは真司を生んでくれた容子のおかげだとそこだけは感謝しているという。
元ヤクザの横川は出所したそばから殺人を犯し再び刑務所に戻ってしまう。もはや人生は終わった、こんな自分は生きる価値はないとして独房で首を吊ろうとする。そんな彼に毎日のように面会に訪れる佐知。彼は自分を救ってくれた。真司が機転を利かせたおかげで面会を果たせた彼女は横川に生きてくれと何度も呼びかける。真司は命を差し入れしたのだ。
残虐な殺人を犯しなんの悪びれる様子もない小島との面会は真司には応えた。なぜこんな人間が存在するのか、こんな人間に生きる価値があるのか、できるなら自分の手で殺してやりたいとまで真司は思った。
小島との面会で精神的に追い詰められた真司にさらに息子のいじめの問題が追い打ちをかける。彼は息子を愛するあまり学校でトラブルを起こす。かつて激高しやすいその性格から過ちを犯したころの記憶がよみがえる。
こんなどうしようもない自分を妻の美和子は見捨てなかった。彼が立ち直れたのは家族の存在があったからこそだった。美和子や星田があんなどうしようもない母容子をかばう気持ちがわかった気がした。人はそこに存在してるだけで価値がある。生きる価値のない人間なんてこの世には存在しない。たとえ残虐な殺人を犯した人間であろうとも。
本作は問いかける。生きる価値のない人間なんてはたしてこの世にいるのかと。今の社会は何かと生産性だの人間の価値を数字で推し量ろうとする時代。障害者や犯罪者のような存在は社会のお荷物として何かと排除対象とされてしまう。しかし二割の蟻のようにそれらを排除してもまた新たに排除対象は生まれてくるだろう。排除対象などと考えている限りは。二割の蟻を排除し続ければやがて蟻はすべていなくなってしまうかもしれない。
人間は生きてるだけで誰かの心の支えとなっている。誰かを支えとして生きているその人はまた誰かの支えになっている。誰かは必ず誰かの支えになっているから存在してるだけで価値があるのだと本作は訴える。生きているだけで価値があると本作はそう訴えている。
本作を鑑賞して相模原事件で犠牲になった寝たきりの障害者の子供を持つ母親がただ生きていてほしかったと涙ながらに話していたことが思い出された。
本作はあえて小島のような誰が見ても忌み嫌う存在を観客の目の前に提示してこんな人間でも生きる価値はあるのかと問いかける点が秀逸だった。
地元に近い大阪都島区には大阪拘置所がある。元首相銃撃事件の犯人や和歌山カレー事件の犯人として収監されてる人物がいる拘置所のすぐ隣には普通の住宅地やら高層マンションが立ち並んでいる。
その高くそびえたつ拘置所の壁を隔てて全く異なる空間が広がっている。そしてそのそばには本作で描かれたような差し入れ店の丸の家がある。その外観はやはり本作のような普通の日用雑貨店の佇まいだ。
昔からこういう差し入れ店があるのは知っていたが、刑務所によって差し入れの規則は細かな点で異なるという。
差し入れを代行する商売があるのは理解できるが、弁護士でもないのに受刑者との面会を親族から依頼されて行うというのは現実にありうるんだろうか。特別な事例で関係者のみが認めれるケースがあるにしても商売として継続的に行えるとはとても思えないし、また弁護士のような高額報酬も得られないのに生涯守秘義務を負うとか凶悪犯罪者との面会などストレスの大きな仕事を一般人にやらせるだろうか。そういう点で本作のリアリティラインをどこにひけばいいかわからなくなってしまった。
おそらく内容的には差入店に着想を得た監督によるかなりの部分創作がなされた作品なのだろう。そのせいか劇中での差入店を営む主人公たちへの周囲の偏見などはあえて物語性を高めるためなのか無理に作られた感じがする。ご近所さんは主人公の真司に前科があるのは知らなさそうだし、逆に収監された小島がなぜ真司の前科を知っていたのか。あの弁護士が喋るはずはないし刑務官が喋ったとしか思えないが、その辺も少し脚本が甘い気がする。刑務官を買収してるシーンなどあれは問題にならないのだろうか。
などなどいろいろと疑問に思うことが多い映画ではあるがそれを抜きにしても人間ドラマとしてはそのこめられたメッセージといい、役者陣の素晴らしい演技といい、総合的にみて良い作品だった。
作品ラストのラスト、壊された植木鉢を淡々と掃除する真司の姿は、たとえ小島のような人間でも受け入れた彼の心情を表したのものであろう。
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