「地元自慢にもほどがある(笑)」サンセット・サンライズ ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
地元自慢にもほどがある(笑)
宮城県出身の脚本『宮藤官九郎』と
山形県出身の監督『岸善幸』がタッグを組み、
岩手県出身の作家『楡周平』の原作を
手際良く料理。
が、本作には、お国自慢と共に、
東北六県の都会に対してのルサンチマンにも満ちている。
ましてや舞台となるのは
「3.11」で甚大な被害に遭った宮城県南三陸。
そこに住まう人の一筋縄では行かぬ思いを
登場人物の科白に仮託し、存分に語らせもする
(もっとも彼らに言わせれば、
それでも伝え足りないかもだが・・・・)。
物語りそのものは
コメディタッチの{ボーイ・ミーツ・ガール}。
町役場の「空き家対策担当」に任命された『関野百香(井上真央)』が、
先ずは自分から、と所有する空き家の情報をNetに登録、
それを見たベンチャー企業の社員『西尾晋作(菅田将暉)』が応募してきたことから起きる騒動の顛末。
コロナ禍での「緊急事態宣言」が発令された2020年から物語りを始めるのがミソ。
当時は活動自粛やロックダウンと、
右肩上がりの感染患者数が公表されるたびに戦々恐々。
二週間の隔離期間や2m以上のソーシャルディスタンスは、
今となっては狂騒曲も、当時は他人に対する不寛容さも相まって
目を血走らせ取り組んでいた。
それらも制作陣の手に掛かると、
ユーモアーの要素として取り込まれる。
都会の生活に閉塞感を感じ、
この機会にテレワークをしだした『晋作』にとって、
南三陸は理想の土地。
趣味の釣りは勿論、豊穣の海から捕れる海産物にも舌鼓。
出てくる料理の数々はなんとも旨そう。
食レポをする主人公の科白を聞くたびに
実際に食べてみたい欲が漲って来る。
その一方で、田舎らしい面倒な近所づきあいにも直面。
あることないこと
町中にあっという間に広がる濃密な人間関係。
口さがない世間は、とりわけ
よそ者に対しては好奇以上の目を向ける。
もっともイノベーションを起こすのは
よそ者・若者・バカ者だと言う。
そのうちの二つを兼ね備える主人公が
町政の課題に対してのカウンターを出すのは
なんとも示唆的。
とは言え、「空き家問題」は公共インフラの維持とも密接に関係し、
本作での解決策がベストかと言えば、
あくまでもファンタジーとして見た方が良さそう。
なまじ彼女の過去を知悉しているだけに、
マドンナに対し四すくみになっている地元民を尻目に、
頓着無い態度で、しかし土地への想いを臆面もなく表に出すよそ者が
かっさらって行くのは、
痛快とは言えぬ。
が、これが地元に染まるイニシエーションとすれば、
納得の展開と言えなくもない。
マスクを外した『百香』の顔に『晋作』が見惚れるのは、
〔三つ数えろ(1946年)〕の『ローレン・バコール』や
〔白い恐怖(1945年)〕の『イングリッド・バーグマン』の
「眼鏡を外したら、とんでもない美人」の援用か。
先の二作は何れも{サスペンス}も、{ラブコメ}とも相性が良いのは、
少女漫画で証明済。