「空家と家族の再生物語」サンセット・サンライズ おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
空家と家族の再生物語
予告から、のんびり楽しい田舎暮らしが描かれることを期待して、公開初日に鑑賞してきました。確かに序盤はそんな感じでしたが、思ったより重いテーマを含んだ作品でした。
ストーリーは、新型コロナが社会に大きな影響を及ぼした2020年、南三陸の町役場に勤める関野百香が、所有する空家の借り手を募集したところ、東京の大企業に勤める釣り好きのサラリーマン・西尾晋作が内見に押しかけて来て、その勢いのまま始まった移住生活の中で、晋作が地元住民としだいに交流を深めていく姿を描くというもの。
新型コロナに日本中が恐怖した頃の東北で、東京からの移住者に対して地元住民が神経質すぎるほどの警戒ぶりを見せる姿が、今となっては懐かしく感じます。あの頃は未知の感染症に対する恐怖で、互いに疑心暗鬼になり、日本中がなんだかぎすぎすしていたように思います。
そんな中、空家問題を皮切りに、東日本大震災を絡め、さらには家族の絆をも交えたストーリーが、さまざまな思いを感じさせてくれます。そしてそこに、田舎の閉塞感、過度な地元付き合い、過疎の悩み、独居老人、癒えぬ震災の傷跡など、実に多様な問題が描かれます。
そのため、当初は軽いタッチで描かれる田舎暮らしを楽しく眺めていましたが、しだいに重くなるトーンに作品の印象が大きく変化してきます。それが決してつまらないというわけではなく、むしろ真剣に見入ってしまいます。特に、震災によって家族を失った百香の父の話、母亡き後の空家となった実家を手放せない息子の話には、心を揺さぶられるものがあります。これらを一本のストーリーとして繋げている点に、着想の巧みさを感じます。
ラストは、新たな家族を迎えて再生し幸せに向けて船出する関野家が、新たな住人を迎えてかつての輝きを取り戻す空家と重なり、なんだかほっこりします。
ただ、やはり盛り込みすぎ感は否めません。空家問題は軽く扱い、震災からの復興や一歩踏みだす人々の姿をメインに描いてもよかったのではないかと感じます。実際に震災を経験した方に対して、腫れものに触るような態度しか示せない私にとって、「ただ見てくれていればいい」というのは、一つの答えをもらったようで、なんだかとてもスッキリします。だからこそ晋作も、いちばん近くで百香を見守る選択をしたように思います。
それにしても、菅田将暉さんは何でもおいしそうに食べますね。なんだか東北に旅行に行きたくなってしまいました。東北弁が聞き取りにくくて何を言っているのかよくわからないところがあったのですが、方言が醸し出す風情は嫌いじゃないです。
主演は菅田将暉さんで、三陸ライフを満期する姿が自然でとてもよかったです。脇を固めるのは、井上真央さん、中村雅俊さん、竹原ピストルさん、三宅健さん、池脇千鶴さん、小日向文世さんら。