「色んなシーンで登場する「語れない本音」と、距離と温もりの相関性が描かれている良作だったと思います」サンセット・サンライズ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
色んなシーンで登場する「語れない本音」と、距離と温もりの相関性が描かれている良作だったと思います
2025.1.17 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(139分、G)
原作は楡周平の同名小説
リモートワークの影響で東北に移住した青年と震災の過去を背負う女性との交流を描いたヒューマンドラマ
監督は岸義幸
脚本は宮藤官九郎
物語の舞台は、コロナ禍の日本
東京の大企業「シンバル」に勤める西尾晋作(菅田将暉)は、フルリモートの移行する余波を受けて、仕事と趣味を両立できる棲家を探していた
ある日のこと、格安の物件が目に止まり、いても立ってもいられなくなった晋平は、家主の都合も考えずに三陸・宇田濱町へと突撃してしまった
その家は、町役場の職員・関野百香(井上真央)の持ち家で、訳ありの物件でもあった
百香は役場の「空き家物件対策」の責任者に指名されていて、自分の所有する家が空き家では話にならないと考えていた
彼女は父・章男(中村雅俊)と一緒に過ごしていて、その戸建てにて一人で住むことを拒んでいた
物語は、強引な晋作が三陸に馴染んでいく様子が描かれ、徐々に「過去を察する」という感じで描かれていく
この「察する」ことができるだけの情報を小出しにしていく流れになっていて、それがそのまんま「外部の人が言葉に出せない」という微妙なニュアンスを表現していた
聞きたいけど、相手のことを考えて口に出せないのだが、それでも滲み出てくるものから、何があったのかを察することができる
この表現は邦画独特の空気を読むというものを上手く表現しているように思えた
後半にて、芋煮会なる暴露会があるのだが、そこで語られる本音と言うのは、誰しもが心の中に抱えているものだと思う
また、地方の空き家問題に真面目に取り組んでいく様子も描かれ、それが「騙されているんじゃないか」と言う空気感になるのも絶妙だと思う
都会は田舎を食い物にしているのかと匂わす場面もあるのだが、地方の荒廃はそのまま都会の荒廃へと直結するので、Win-Winを考えられるアイデアというものが実現できれば、モデルケースとして広がっていくのかなと感じた
映画では、ディスタンス(距離)というものがテーマになっていて、コロナ禍の無理な距離感はそのまま心の距離感にもなっていた
晋平と百香がふれあうのが熊騒動のどさくさのみで、それ以外は絶妙な距離感を保っていた
それがハグに変化するというのが映画の醍醐味であって、そのために必要な時間というものは、過去を消化する時間であるとともに、自分自身の未来を考えた時に欲しい温もりが何かを考える時間だったのかな、と感じた
いずれにせよ、思った以上に重い話でありながら、コミカル要素があって、緩急自在のシナリオになっていた
登場人物も魅力的で、脇役まで含めて愛されキャラが多かったと思う
芋煮会での百香の同僚・仁美(池脇千鶴)が晋平を焚き付けるのにも意味はあって、彼女自身も先に進みたいのだと思う
ビジネスとして官民が動いていくジレンマもあるものの、都会人の思惑と田舎に住む人の温度差も描かれているし、一社員と社長の視野の違いというものもきちんと描かれていて良かったように感じた
ラストの晋平と百香の選択は今風だが、そう言った過去のしがらみを超えていくことが必要なことなんだと思った