「感動ポルノに見えるホラーに感じるのは、裏を読みすぎてしまうからなのだろうか」366日 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
感動ポルノに見えるホラーに感じるのは、裏を読みすぎてしまうからなのだろうか
2025.1.10 イオンシネマ京都桂川
2025年の日本映画(123分、G)
HYの楽曲「366日」にインスパイアされたラブロマンス映画
監督は新城穀彦
脚本は福田果歩
物語は、2024年2月29日に、沖縄から陽葵(稲垣来泉、幼少期:永谷咲笑)が東京を訪れるところから紡がれる
彼女は父・琉晴(中島裕翔)から頼まれて、ある人物に母・美海(上白石萌歌)のメッセージの入ったMDを渡す役割を任されていた
時は遡り、2004年の沖縄では、幼馴染の琉晴と美海が仲良く遊びながらも、一線を越えない関係が続いていた
琉晴にはその気持ちがあったが、彼はこの関係が壊れることを恐れて、ずっと胸の奥に潜ませていた
ある日のこと、琉晴がバイクで事故を起こし病院を訪れた美海は、そこで高校の先輩・湊(赤楚衛二)と出会った
ぶつかった末に二人の持っていたMDが入れ替わってしまい、美海はそれを元に戻そうと彼の教室を訪れた
だが、湊は母・由紀子(石田ひかり)が他界し、それから学校に来ていないと言う
美海は心配になって、いろんなところを探していると、浜辺で寝そべって、音楽を聞いていた湊を見つけた
美海はMDが入れ替わっていることを告げ、琉晴の店で買ったサーターアンダギーを彼と一緒に食べることになった
それから二人は交流を深め、いつしか恋人のような関係になっていった
映画は、この二人がなぜ別れるに至ったのかを回想する流れになっていて、その回想は「母のMDの告白を聴いた陽葵の脳内妄想」のような構図になっていた
おそらく彼女は、その録音を「二つ」聴いていて、湊には「トラック2」だけを聞くように促していた
「トラック1」に関しては映画内でははっきりと言及されないが、おそらくは「妊娠が発覚して渡そうと思った時に録音されたもの」だと思う
当初は「あなたを愛しています。365日では足りないくらい」と書かれていたが、それが「あなたを愛していました。365日では足りないくらい」と書き直されていた
いわゆる湊との関係は過去のものになったと言うのが「トラック2」になるのだが、「トラック1」を消さずに残しておいたところに美海の意思と言うものが残されていると言える
陽葵は「トラック2」を彼に聞かせるが、そのMDは彼に渡してしまっているので、「トラック1」が残ったままだと、いずれはそれを聞く日が来るのかな、と感じた
また、このMDは「トラック2」が録音された後に美海が彼の家のポストに入れたもので、その後、美海は浜辺で彼とすれ違っていた
二人の中では恋愛は過去のものとなっていて、それが結婚式での陽葵に手を振ると言う行為で完結していた
二人がそう決めた後に琉晴はMDを奪い、それをどこかに隠していたのだと思うが、中身を聞いた上で渡してほしいと言ったのならば、「最後は本当の家族で」というセリフには至らないように思えた
映画は、美海が東京から妊娠して戻り、その父親は誰かと問い詰めるシーンがあって、そこで琉晴が「俺の子どもです」と嘘をつくと言うシークエンスがある
美海の両親は「嘘だとわかっている」のだが、琉晴の思いを汲んで彼に孫を授けている
だが、湊が沖縄に戻った際に琉晴が「美海は一人で大変だった」と言い放つなど、彼の言動がなぜそうなるのかわからない部分が多い
それ以外にも、両思いに見える陽葵と琥太郎(齋藤潤)にしても、陽葵の好きな相手には別に好きな人がいるなどのくだりがあって、このあたりの関係性も不明瞭に思える
映画は、このような細かな「?」が常に付きまとうのだが、一番驚いたのは「366日」にインスパイアされた作品なのに、「366日」で描かれる女性(語り手)の感情が、映画では真逆になっているところだろう
楽曲では「未練があって」みたいな執着を存分に感じさせるのだが、「トラック2」の告白だけでは「未練を断ち切っている」ように思える
描かれない「トラック1」はおそらくは執着に塗れたものだと思うので、美海に格好をつけた後に湊が「トラック1」の存在を知って、彼女の本当の気持ちというものを知るというラストがあっても良かったのかな、と思った
いずれにせよ、MDを使用していたのがかなり昔のことなので、トラックナンバーがどうなるのかはあまり覚えていない
おそらくは、トラック1が残ったまま次の録音をすればそれがトラック2になり、トラック1を消しても名前はトラック2のままなのだと思う
だが、陽葵がわざわざ「トラック2」を聴いてというからには、何かしらのデータが「トラック1」として残っている可能性の方が高いのだと思う
その両方を聞いたから陽葵は母の恋愛の全てを知ることができたと思うし、湊にトラック2だけを聞かたいと感じたのだろう
彼女の年齢でそれが咄嗟にできてしまうのかは置いておいて、劇中に登場する女性陣は結構強かな人間であるように思う
未練トラックを残したまま元カレに渡そうとする美海とか、湊の弱さを知って寄りかかられたら困るから拒絶する香澄(玉城ティナ)なども、冷静に考えると湊を完全に突き放しているように思える
そこに加えて、陽葵も湊を沖縄に来させないためにトラック2だけを聞かせていると思うので、そのあたりも含めて闇が深い
ものすごく純愛映画のように見えるのだが、このような意図したものかわからない設定や感情が見えてしまうので、個人的には涙腺を刺激する部分はなかったというのが率直な感想である