「カズオ・イシグロの原点が、夢と記憶の狭間に光る。」遠い山なみの光 leoさんの映画レビュー(感想・評価)
カズオ・イシグロの原点が、夢と記憶の狭間に光る。
まず印象的なのは女優陣の存在感。主演の広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊、それぞれが感情を抑えつつも張りつめた緊張感を漂わせる演技を見せている。
台詞回しは昭和20〜30年代の邦画を思わせるような少し硬さのある調子で、背景もスタジオセット的な雰囲気。これらが合わさり、独特の世界観を生み出していた。
正直に言えば、自分の理解力不足もあり、途中でストーリーを見失いかけた。終盤で何とか追いついたものの、「あれがこれで、これは誰?」という具合にやや消化不良。だがその曖昧さもまた、夢を見ているかのような体験に近い。例えるなら、夏の昼寝のあと、夕景と夜景の狭間で見た夢のような映画だった。
一見すると反戦や女性の自立を描いた作品のように見えるが、そう単純ではない気がする。むしろこれはイシグロ自身の原点を映し出した物語なのではないだろうか。
1954年に長崎で生まれ、5歳でイギリスへ移住。幼い頃に抱いた不安や、異国での将来を想像する中で芽生えた曖昧な感情。その精神世界を形にしたのが本作だと感じた。だからこそ、普遍的なテーマ性よりも、彼自身の幼少期の心象風景が強く投影されているように思う。
つまり、この作品はストーリーを「理解する」よりも、映像から自分が「感じ取る」こと自体が正しい鑑賞体験なのかもしれない。
ただし商業映画として観るなら、もう少し輪郭のはっきりした物語を期待したくなる部分もある。とはいえ、サブスクで繰り返し観れば、新たな発見や自分なりの答えが見つかる作品だと思う。
以上
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