「忘却の彼方から蘇る長崎の原爆の記憶の語り直し」遠い山なみの光 あさちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
忘却の彼方から蘇る長崎の原爆の記憶の語り直し
長崎は原爆で壊滅的で放射能によるずっと続く不安も含め、悲惨な被害を蒙った
戦後復興のなかで、そこに住む原爆の被害をこうむった人々は、勇気を奮い立たせて前に進むために仕方なく、子供たちへの放射能の影響や日々の生活の苦しさや葛藤などの封印していた辛い記憶を抱えて戦後を暮らしてきた
復興が一段落し観光地として脚光を浴び始めていた長崎を舞台に、その一度、封印した記憶をあたかも遠い山なみから層をなすように浮かび来る仄かな光のように描き出す
母が語る記憶を見事に描いたのがノーベル賞作家カズオ・イシグロの「A Pale View of Hills」は傑作文学であり、石川慶監督が映像化に真正面から取り組んだのがこの映画「遠い山なみの光」だ
記憶の中で形作られる嘘も含めて、戦後における原爆が心に落とした影だけでなく、復興に取り組む人々の逞しさが放つ希望の曙光など、さまざまな記憶をしっかり胸に抱き留めた上での"語り直し"をしっかりと映像化している
タイトル「遠い山なみの光」は過去 現在 未来へ向かって逞しく生きる女性たちの放つ光が層をなして光っている情景そのものだ
過去のものだけではなく、現代を生きる娘のニキの葛藤を通して、この物語は、あなた自身にも照らしてみて欲しいというメッセージも伝えている
映画は記憶の中の嘘や混乱に明確な答えを用意していない、敢えて最後まで曖昧のままだからこそ、観客は映画館を出た後もモヤモヤを感じて自分や他者と語り合うことだろう
そして何遍も観ることで、自分なりに答え合わせが出来る、優れた文学のように余白を描いてみせた、紛れもない傑作だ
珍しく感想を言葉にするまで長い時間を要したが、その煩悶は心地よい時間でありました
記憶に残る美しい映像を是非とも映画館で観て欲しいと思います
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