「魂を作る素材としての記憶」遠い山なみの光 penさんの映画レビュー(感想・評価)
魂を作る素材としての記憶
人間の記憶は時間の経過とともに単に薄れるだけでなく、形や内容が変容していき、元のかたちから大きくかけ離れることがあります。これは実験的に確認された心理学の基本知見だそうですが、「記憶」は、その人がある事象とともに感じた、喜びや恐怖や耐えがたい罪の意識などそのときの「感情」と深く結びつき、自身の精神の崩壊を回避するような合理的なカタチで保存され、その人の魂を構成する素材になるのだと思います。
この作品は、映画的表現を存分に駆使しながら、この「人間の記憶の曖昧さ」という性質を、実に巧みに利用していて、そのときどきの感情と結びついた記憶の断片を、サスペンス仕立てで観客に見せてゆきます。そしてその保存のカタチの変容の全体像が判明する瞬間に、主人公達の中に潜んでいた感情の傷の、時代背景とその強さが観客に理解されるような構成になっているように思いました。
「壮大な感情の力を持った小説を通し、世界と結びついているという、我々の幻想的感覚に隠された深淵を暴いた」2017年のノーベル賞受賞理由ですが、最近鑑賞した「私を離さないで」にも同じ物を感じ、なるほどと思いました。
主人公3人の演技も素晴らしく、大変見応えのある作品でした。
「ある男」も良かったですが、今後も目が離させない監督さんになると思います。
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