劇場公開日 2025年9月5日

「記憶と夢の迷宮物語」遠い山なみの光 kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 記憶と夢の迷宮物語

2025年9月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

ノーベル賞作家カズオ・イシグロの40年前に書かれた長編デビュー作を「愚行録」「ある男」などの石川慶監督が映画化した。2025年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品作。
原作は未読のためどうアレンジされているのかはわからないが、謎の部分が残されるので観るものに解釈が委ねられている。
1980年代英国で暮らす悦子(吉田羊)と娘のニキ(カミラ・アイコ)はもう直ぐ売りに出す家の片付けをしている。ニキは母の故郷である長崎の戦争や原爆についての記録を執筆中で母はニキに長崎の記憶を語り出す。
映画は戦後間もない30年前の妊娠中の若き悦子(広瀬すず)と謎めいた女性、佐知子(二階堂ふみ)とその娘万里子(鈴木碧桜)とのエピソードと英国での悦子と娘のエピソードが行ったり来たりする。
物語が進むにつれ過去のエピソードは悦子の記憶と夢が混ざり始めミステリーの要素が強くなってくる。
長崎の話は悦子と夫、二郎(松下洸平)や二郎の父親(三浦友和)との話はリアリティがあり輪郭がはっきりしているのだが、公団住宅の窓から見える佐知子が住む川沿いのバラックや橋、草むらといった風景は書き割りのようでもありリアリティがない。バラックの内部は外観とは似つかない調度品や食器は欧米調でまるでセット。佐知子を演じる二階堂ふみの演技もどこか演劇風で謎めいている。
その謎は終盤になるにつれ明かされてはいくのだが判然とはしない。
理不尽な戦争に巻き込まれ、心にも体にも傷を負い、ひどい差別のなか生き抜いてきた人間の過去の記憶の曖昧さや輪郭がぼやけた夢はそうした人の心の闇を描いているようでもある。
一方分かりやすく時代の変化や世代交代、引き継ぐものと進化するものといった事もスーツケースや妊娠といった要素で描かれており、ミステリー要素との連動性がよくわからない部分もあった。
戦争を直接的には描いていないが人間の心に残される戦争の傷跡を丁寧に描いた良作だ。

kozuka
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