「世界最高精度の画面」遠い山なみの光 milouさんの映画レビュー(感想・評価)
世界最高精度の画面
この映画は、ストーリーラインを律儀に追っているだけでは半分も分からない。色彩と光、画角、俳優の移動・カメラの移動、音楽をひっかけたシークエンス間の移行、それがどれほど緻密に組み上げられているか。そういう細部が「物語」の大半を担っている。この精度の高さは今の映画の世界で文句なく最高水準。
そして俳優の見事さ。広瀬すずは彼女の最大の武器である印象的な瞳をつかって、視線だけでさまざまな物語を語っている。そして吉田羊、そのたたずまいが物語るものの多さ(吉田羊の英語は本当に見事で、あの日本人訛りをも上手に利用している)。二階堂ふみの昭和のアクセントと語尾を駆使した演技もうまくいっていて、彼女の映画的教養の深さがよく分かる。
そしてショット演出と構図の周到さ。たとえば川縁の粗末な小屋へ行って、悦子(広瀬すず)が佐知子(二階堂ふみ)の長いモノローグをきいているとき、カメラは佐知子を撮っていなかったのを覚えているでしょうか。あのときカメラは、ずっと悦子の周りを回っていた。そしてようやく佐知子が映ると、彼女はカメラに背を向けている。二階堂ふみは、その表情の表現力を封じられたまま言葉だけで物語をつくりあげていて、広瀬すずのわずかな視線の動きが、それを補強している。観客はフレーム外から聞こえてくる言葉だけを追わねばならないので、想像力をつよく喚起されてゆく。
そんな風なので、この映画を見るときは台詞を追って物語だけを理解しようとしてはダメなのです。広瀬すずが視線をどこにさまよわせるか、吉田羊がどこでどう立つか、そして画面から画面がどのように切り替わってゆくか、その照明と光の関係は、どんな構図の画面がどこに挟み込まれるか…というところに注目してほしいですね。
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