「雰囲気は館ものゴシックホラーに近い」遠い山なみの光 sugsyuさんの映画レビュー(感想・評価)
雰囲気は館ものゴシックホラーに近い
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原作未読。美しい女優、穏やかな情景をずっと映しているのに、極端なアップや画面の狭さもあって、ひたすらに不穏。終盤の、封じられた部屋で家族の秘密のアルバムを恐る恐るめくる…というシーンはこの映画全体の縮図でもある。原爆による大量死を背景に、長崎から渡英した女性の苦難の一生を辿る…といったありきたりな要約では到底収まり切れない、暗く恐ろしいなにものかが、この物語の奥底に隠されている。1枚1枚薄皮を剥ぐように、その核心へと進んでいく本作の道行きには、奇妙な酩酊さえ覚えるが、最後に至っても、「真実」は薄暗い闇の中に残されたまま。(例の「紐」は、渡英の邪魔となる娘への殺意を象徴したものだ、とか渡英によって結果的に娘を自殺させたことへの悔恨が回想に投影された、とか)解釈を巡らせることはできるが、推理小説のように謎がきれいに解き明かされはしない。3人の父、3人の女、3人の娘が居て、うちそれぞれ1人は幻、もしくは亡霊のようなもの…といった図式も描けるか。謎を「箱」(本作に繰り返し登場する象徴的アイテム)に押し込めたまま、ただ生き続けるしかない…彼女たちも、我々も。恐らく今年の邦画で一番の大傑作。
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