「被爆し復興する1952年の長崎を1980年代初頭のロンドンで回想する。」遠い山なみの光 ゆみありさんの映画レビュー(感想・評価)
被爆し復興する1952年の長崎を1980年代初頭のロンドンで回想する。
どこまでが真実でどこからが虚構なのか。どれが記憶の改竄でどれが意図した嘘なのか。
1952年の長崎、僕はまだ生まれていなかったけれど懐かしくて美しい映像。被爆地長崎はまだ戦災の色濃い一方で復興も進み活気に満ち溢れてもいる。何もない原っぱに真新しい団地。団地のベランダから見えるバラック小屋。バラック小屋に入るとなぜか高級感のある家具に食器。小屋の住人がアメリカ兵にもらったんだろう。被爆に対する悲惨な思いに対する共感となぜか被爆者に対する差別が共存している。今では考えられないことだが、そんな社会だったんだろう。二郎が子供を宿す悦子の腹を擦りながら「君が被爆してなくてよかったよ」というデリカシーゼロの発言。その二郎だって傷痍軍人なのだ。彼のデリカシーのなさも擁護すべきなのか、だからこそ強く糾弾すべきなのか。何から何まで対立する二つの事柄が頭のなかを交錯する。悦子の行動、そして嘘や記憶の改竄。僕の頭のなかで交錯する謎とどう捉えるべきなのかとの葛藤はここに書ききれないほどにある。
僕はカズオ・イシグロの小説が好きで多くの作品を読んでます(「遠い山並みの光」は読んでませんが)。「日の名残り」「私を離さないで」は好きな小説であり映画です。そしてこの映画は僕の好きなカズオ・イシグロの世界です。
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