「ハッと二度はする!心胆を寒からしめる、この闇に触れる思いがした。」遠い山なみの光 The silk skyさんの映画レビュー(感想・評価)
ハッと二度はする!心胆を寒からしめる、この闇に触れる思いがした。
戦後80年、先月”雪風”、”木の上の軍隊”を見て今年のお盆は締めくくったと思っていたのですが、いえいえ 本命が残ってたと言う想いですね。
ここに来てこの作品なのでしょうか。そう言う思いが強いです。
今日はカズオ・イシグロ作「遠い山なみの光」の鑑賞です。
本作は第78回カンヌ国際映画祭でワ-ルドプレミアが行われました。
劇場内、女性の方が多く来られており関心の高さを感じましたです。
まずこの映画ですが、流れ仕掛け的に似ている作品が思いつくところでは
”ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日” これかなと感じました。
自分の事だけど他の物に例えて話していく様ですね。最後に総てを一瞬で語る辺りがそうかなと。
総評から言うと、4.2。
原爆病に触れた女性視点に立ち、心の底に抱いた どうする事も出来ない悲しみ、怒りの様なものが根底にあり そこから派生する主人公のやり切れない運命の定めを強く感じる事ができました。その点が素晴らしい点と評価致しました。
特にこの題名の ”山なみの光” とは何を指すのかです。色々と解釈が出来ると思いますが、私は素直に長崎に落とされた原爆光と感じました。
しかしそれだけでは無くて、主人公悦子が家族(夫)を捨てて再婚でイギリスへ渡った時に孤独の中で感じ得た脳裏に思い起こす故郷。その想いが遠くの山奥で仄かに光っている様な情景を思い描いてる様に感じます。そしてそれは同時に景子の運命をも引きずっています。
それらを感じて欲しい所でしょうか。その想いが次女へ語る話の中に虚構を産んでしまうキッカケの一つに繋がるのだろうと感じます。
原爆病を遺伝させたかも知れないと思われる自身の子供に関して、特に女性は切っても切れない程の運命の繋がりを持たれると思います。男性は女性のこの不安な思い苦しみはきっと分からないだろうと 私はそう感じます。
この部分の人物背景だけでも 心に重く響くものを受けました。
何故彼女は日本を離れようと思ったのか。娘が亡くなって閉ざされた部屋の秘密。
そして拾われた子猫達。戦後に忘れては成らない感情が沸々と蘇ってきます。
女性視点の戦後80年を私は忘れていたんだと、この作品を観てそう深く感じました。
原作:カズオ・イシグロ氏(長崎出身)
監督・脚本:石川慶氏
-------素晴らしい俳優陣--------
緒方悦子役:広瀬すずさん
緒方二郎(夫)役:松下洸平さん
緒方誠二(元校長 義父)役:三浦友和さん
悦子(現在)役:吉田羊さん
景子(長女)役:
ニキ(次女)役:カミラ・アイコさん
佐知子(友人)役:二階堂ふみさん
万里子(佐知子の子 子猫拾う)役:鈴木碧桜さん
藤原役(食堂):柴田理恵さん
松田重夫(誠二の教え子):渡辺大知さん
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(2度の驚き)
①驚き
私は家に老猫(オス)を飼っています。(保護ネコ)
餌をあげても猫パンチを時々して来て彼の愛情表現を食らってます。
そんな私ですが、この映画の 佐知子が引っ越す前日に、ダダをこねる万里子の拾ってきた子猫が入った箱をそのまま川岸に持って行く場面はかなり衝撃を受けました。
”うわぁっ” て 思わず口に手をしましたです。
これはかなりトラウマに成りそうな場面でした。
実は映画では 娘万里子の猫を取り上げて、母佐知子が殺める場面と成ってますが、元話は 悦子が気がついて止めたと言うのが本スジらしいです。間違っていたらごめんなさい。
②驚き
何と言っても、イギリス宅で次女のニキが閉ざされた景子部屋の遺品を観る時でしょう。流石に 何が何だかって成るかもです。
今まで娘ニキへ母が語ってきた ”家族を原爆で失った母”のその後の結婚生活、姉景子の話、友人の話と友人の子供の話。
どれも本当なのかと思っていたけど、 どうやらこの友人(佐知子)と友人の子(万里子)は虚構だと分かる所ですね。
実は 母悦子と、娘景子の事だったと遺品から分かるんですね。
私もこの場面は 心に震えが出るくらい ”えっ”て 成りました。
同時に何故長女景子がこうなったのか。(つまり自殺)
自分が過去(長崎を捨てた理由)そしてこのイギリス宅とも離れる理由。
生まれた日本長崎の思いとの断絶感。何も良い思い出が無かった自分。
イギリスに来ても孤独だった日々を過ごしてきた自分。
これはまるでイシグロさんの歩んできた半生(日本に居た時受けた感傷)を作品を通して そこに垣間見た気がします。
作者は何処かに自身の過去に獲た想いを透過させていたのでは無いでしょうか。
私はその様に感じました。
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結局のところ、これから書くことは映画では描かれてはいませんが
悦子は長崎の原爆で家族が亡くなり被爆者で原爆病に成っていたのではと思います。気になって周囲に馴染めない彼女。原爆の風評被害を受ける事もあったでしょう。その中で教育者として先生との結婚生活、景子妊娠出産は最初は上手くいったと思います。しかし・・・
やがて歯車が狂い夫と距離が出来て愛されなくなって孤独に。すべてはこの病からだったのかと感じます。そして何もかもから逃げ出しくて 夫を捨てて。
新しく出会ったイギリス人の元、自分を全く知らない異国へ娘を連れて向かったのでは無いでしょうか。
これらを叶える為に悦子は色々な仕事をすべてしたと思うのです。
しかしイギリス人との結婚生活、次女ニキが生まれても 戦後の敗戦国日本人への差別を受けたと思います。そうでは無かったでしょうか。
同時に無理やり父と離され連れて来られた景子。彼女の心が蝕んでゆく。
そして自身の命を絶つ事に。
ひょっとして この蝕んだ元凶も原爆病からの何らかの遺伝ではないでしょうか。
私は全ての不幸の繋がりが 結局のところ ”山なみの光”にある様に感じたのです。そう言う思いを心の奥深い所で触れたかなと、 そう想っています。
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俳優陣(特に女優)は素晴らしいかったです。
特に広瀬さん、今までにない位の成長を感じました。
目線に表情に訛り台詞、今作はとても良いですよ。
特にバイオリンへの想いを語る涙の場面。
あそこの場面の あの思い、こちらの心の奥までズーンと響きましたです。
そして何と言っても二階堂さん。
彼女らしい演技。そして役どころでしょうか。
何処となく はぐれ者、交えない自分を見事に演じていたと感じます。
私はあの川岸の場面、めちゃ衝撃を受けました。
義父役 三浦さんの優しさある目線。そして苛立ち。
元教え子との勇気ある対峙。(軍国主義と平和主義)
昭和初期の男姿を感じました。
9月入って 秋の新作が目白押し。
ご興味御座います方は、
是非、是非お早く劇場へお越し下さい!!
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