「わたしはあなた、あなたはわたし」遠い山なみの光 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
わたしはあなた、あなたはわたし
イギリスの片田舎に住む『悦子(吉田羊)』の元を
ロンドンに住む次女の『ニキ(カミラ・アイコ)』が訪れる。
目的は、嘗て母親が住んでいた長崎での暮らしと、
渡英することになった経緯を聴き、
それを記事に仕立てること。
母娘の対話を通して、
戦後直ぐの長崎の世相が甦る。
共感と対立、女と男の、
二つの軸で物語りは展開する。
長崎に居た頃の『悦子(広瀬すず)』は
帰還兵の夫と結婚、
新築のアパートに住み、
妊娠数ヶ月の体を抱え日々の家事に勤しんでいる。
そんな彼女が川岸のバラックに住む
幼い娘『万里子(鈴木碧桜)』を連れた
『佐知子(二階堂ふみ)』と知り合う。
『佐知子』は『フランク』と言う名のアメリカ兵と
アメリカに行くことを目論んでいる。
渡米が二人の幸福に直結するか懐疑的な『悦子』だが、
陰に日向に母娘を援助する。
しかしここで観ている側にはむくむくと疑念が湧き起こる。
住んでいた場所、被爆の実態、子供の存在と、
二人の履歴はあまりにも似ている。
『佐知子』は実際には『悦子』であり、
友人に仮託した話としているのではないか。
提示される年代から逆算しても、
子供の年齢には乖離がある。
実の娘にも真実を話していないのでは、と。
家族には長女の『景子』が居たものの、
彼女は自死をしており、ただ
その経緯は詳らかにはされない。
『悦子』はいまだに悪夢にうなされる。
長女を連れてイギリスに来なければ、
彼女は死なずにすんだのではないかとの後悔の念に苛まれ。
本年1月公開の〔TOUCH/タッチ〕でも
被爆者の地元での生き辛さと、
逃れた先の海外でも異邦人としての差別に苦しむ姿は描かれた。
表立ってはいないものも、
同様の事態に直面し味わった苦難は、
本作の裏側でも起きていたのは容易に想像できる。
ここまでは、女たちの共感の物語り。
そこに、長崎に住んでいた当時、
義父の『誠二(三浦友和)』が訪ねて来たエピソードが挟まれる。
実の息子も彼の軍国主義には辟易しており、
父子の関係はぎくしゃく。
加えて嘗ての教え子が、
その軍国教育を糾弾する論文を学会誌に寄稿したことで、
『誠二』は激憤する。
二つの世代の溝は埋まることがない。
もう片方の、男たちの対立が露わになる。
『広瀬すず』を観に行ったわけだが、
彼女の演技にも、本編にも十分に満足し劇場を出る。
エグゼクティブプロデューサーとして参加した
原作者の『カズオ・イシグロ』も同じ思いではないか。
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