「原作者お墨付きの謎解き」遠い山なみの光 島田庵さんの映画レビュー(感想・評価)
原作者お墨付きの謎解き
原作を読んだ時点ではーー
佐知子はなんだか嘘ばっかりついてないか?と思わせる台詞が多く、
娘の万里子への当たりもキツすぎるんだが、
その実、悦子も明らかに嘘をついている場面があり、
そう考えると、万里子への接し方も含めて、悦子の一人称語りをどれだけ信用できるのか分からなくなる。
そうして頭がクラクラしてきたところで、
なんの謎解きもないまま、話は終わる。
1950年頃、長崎で長女景子を妊娠していた悦子が、
それから約30年、最近景子を失うに至った経緯は、
ほとんど何も明かされない。
こちとらのアタマの中でも、
過去の悦子と現在の悦子が同一人物だという気がせず、
むしろ佐知子が今の悦子?そして万里子が景子?とか妄想したり、
ハテナがいっぱい。
これってホントに完成形?とすら思う。
映画では、いったいどうするんだろう。
ふつうに撮るだけでは収まりがつかないんじゃなかろうか、と
余計な心配などしたりしていたんでありますが、
映画を観てーー
映画は、原作のエピソードをベースに、
(1) 人物設定の要素を追加/変更し、
(2) 日本(人)ならではの視点を加え、
そしてなんと、
(3) 謎に対する回答を提示した。
しかも、エグゼキュティブ・プロデューサーに
カズオ・イシグロの名が。
ということはこの回答/解釈は、
唯一とは言わないにしても、
原作者公認、ということになる。
(1)は、
原作では大学に入学していないニキが、
映画では大学を中退してライターしてたり、
原作にはなかった結婚願望を持ってたり。
正直、変える必要ある?
(2)は、
若き英国人たる原作者は思い及ばなかったのだろうけれど
戦後間もない長崎の日本人なら当然
こう言ったり思ったりするだろう、という設定の追加。
これはまあ、納得。
そして(3)がびっくり。
万里子は景子で、
佐知子は悦子の分身であり、虚構
だってんだから、ブッ飛んだ。
しかも、原作者お墨付き。
いやあ、そういうの、ありなのね。
おかげでワタクシは、
原作読後のモヤモヤが、スッキリ晴れたのであります♪
なお、
悦子/佐知子を演じた3人の女優さんの演技は、
それはもう、見事でありました。
【追記】
原作についてもう一度考えてみた結果、
佐知子と万里子は1960年頃の悦子と景子である、
という結論に至りました。
映画も、そういう見方で齟齬はなかろうかと。
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