「ゆがめられた記憶」遠い山なみの光 ノーキッキングさんの映画レビュー(感想・評価)
ゆがめられた記憶
作家志望、次女ニキの視点が全てを明らかにする。
母の引越し荷物から、縁日の射的場で万里子が獲った筈の黄色い箱がみつかる。中には佐知子の荷物も多数あるのだ!昔語りを書き進めていたニキは、もやもやとしていた糸がピーンと張り詰めるのを感じる。これがここに在るのは?もしや佐知子と母•悦子は同一人物ではないのか!佐知子は母の妄想?記憶の中で創り出された架空の人物?同じ被爆地域に居たこと、女の子を育てていること、英語が分かること、アメリカ行きはイギリス行き?疑念がぐるぐると回りだす。
佐知子との出会いの話もなんだか可怪しい。『時々訪ねて来る外人さんは誰?』初対面の相手にそんな質問をするだろうか?何故その事を知っているのか、何処で見張っていたのか。しかし佐知子は『ああ、あれはね』と即答する。このやり取りは不自然すぎる。
そしてあの会話『私未だ言っとらん事がある』『いいのよ判っているから、私達は似てるもの』母•悦子がまったくの別人格として、ずっと語っていた佐知子は存在しないことをニキは気づきはじめる。
ただ、夫との離婚の経緯は不明だ。夫婦を訪ねてきた父親は、原爆のせいで日本は負けたのだという校長。その息子は妻を奴隷扱い。旧弊、日本の象徴であり、万里子(景子)が
行方不明になったときも無関心、同僚を連れ込んで酒盛り、父は警察に電話しろとだけ。私が被爆者だったら結婚した?の問いを無視する男と別れても不思議ではないが。
だから、実際、離婚後に河川敷のバラックに母子二人で棲んでいたのは母•悦子と景子なのだ。(映像としては、ちょっとだけ説明される。悦子が万里子を景子と呼び、うどん屋の客に悪態をつき、外人観光客を通訳、案内する姿。)うどん屋と通訳を掛け持ちしている時にイギリス人の父親と出会った、で説明がつく。
忌まわしい日本と訣別し、異国の地に活路を見出そうとしたのは自分のエゴで、我が娘を首つり自殺に追い込んだトラウマから逃れられない母•悦子の苦悩をやっと理解し始めたニキは
何故、母がウソの昔語りをしたのか、何故そうしなければ生きられないのか、外側から自己を客観視するために佐知子を産み出した心的補償とは……家族のストーリーを書くことで心満たされてロンドンの帰途につく次女は、たぶん、あの電話の不倫相手とも別れるのだろう。
久々に複雑な構造の文学作品映画を観た。実はノーベル賞イシグロ! ん?と思った人間なので原作も全く知らない。遠い山なみの光とは、明るく、たおやかな風景を想像したが、実際は昏く苦い夕景のひかりだった。被爆地ナガサキを背景にした戦後の女性の生きた証を見事に描いていた作品だと思う。
細部にも凝っていて、部屋の中の古いミシン、外から聞こえる干した布団を叩く音、路面電車の窓ガラスの隅が曇っている……等々。広瀬すずと二階堂ふみがキレイ過ぎるのは赦してほしい。レビュー始めてちょうど1年、良いものが観られました。
ノーキッキングさん、コメントどうもありがとうございます。
全くその通りですね。
二階堂ふみさんが出演していなければ映画館で観ようとは思いませんでしたから、自分にとっての名作に出逢えて感激しています。
棚から牡丹餅でした。
コメント・共感頂き有難うございます。
理解度が深いですね。レビュー読ませてもらって、より解ることができました。
「長女の謎(?)・悦子の正体(?)」は、大袈裟でした。長女が何に苦しんでいたのか、悦子と一緒に悩むというのも映画の鑑賞の仕方として有りかもしれないですね。
ありがとうございます。想像をはるかに上回る結末で最後見終わった瞬間は???でした…
ストーリー見直しでやっと美しくも哀しい映画だと分かります…なのでこのレビューは必要ですね。
共感、コメントありがとうございました。
おっしゃるように、広瀬すずも二階堂ふみも今までとは別の次元の演技でしたね。当然本人たちの力量があればこそですが、やはり石川慶監督の演出の素晴らしさだと感心しました。
コメントありがとうございます。イシグロ作品の映画化に関しては、原作をきちんと読み込める「読み巧者」であること、それをスクリーン上に展開できる「表現巧者」であることが高いレベルで求められるのでハードルが高いと思います。今回の石川監督は見事クリアしてました
ノーキッキングさんのレビュー読んだのにそれも見落としてたってことですね。
それにしても、たった一つで自分の理解がひっくり返って自分でも驚きです。
始業まであと5分、コメント書けて良かった、朝から大変な充実っぷりです。
コメントありがとうございます。
うどん屋で悦子は万里子を景子と呼んでましたか、聞き逃したようです。では、万里子=景子なのですね。ぢは、やっちまった描写は、悦子の罪悪感が見せたものだったのでしょう。
共感、コメント有難うございます!
虚実入り乱れる文学作品の良いところをうまく映像化できてると思いました。義理のお父さん(元校長)が、亭主(実の息子??)に対してもよそよそしいのは何故だろうか、思ってました。何か見落としてますかね?
コメントありがとうございました。
観客に考える余地を与える作品で、見終わっても楽しめるお話でした。
吉田羊が広島のシーン登場したあたりで、序盤の違和感の理由が分かり、中々味わい深いものがありました。
コメントありがとうございます。若くてこれだけ上手い広瀬すずはちょっとヤバいですね。感情リミッターのはずれ方が自然でハンパなく他に類を見ない。演じてます感が無いんですよね。
コメントありがとうございます。原作はかなり以前に読んだのと今回の映画化に伴い再読しました。原作はカズオ・イシグロ作品独特の不穏さやあえて登場人物の心理描写を詳細に描かず余白を作ることで読者の想像力を搔き立てるもので、これはこれで魅力的ですし、映画は映像が美しくてこちらもよかったです。原作はおすすめです。
コメントありがとうございます。悪辣な詐欺師役の三浦友和さん、観たいですね!
二階堂さんも広瀬さんも本当に美し過ぎました。改めて言われてみて、レビューに書き足したいことが思い浮かびました。ありがとうございます。
実際に殺るなら、箱の中身だけを川に放ればいいわけで、箱ごと水に漬けるという違和感こそが、やってない証拠かもしれないですね(あの鳴き声は怖すぎました)。娘を悲しませた罪悪感が猫殺しのイメージなんでしょうね。
なんか殺伐としたコメントになりましたが、私は実家の猫の姉妹に時々会いに行ってます。捨て猫でしたが美猫に育ちました。
コメントありがとうございました。
>久々に複雑な構造の文学作品映画を観た。
私もそう感じました。原作は未読ですが、映像化は相当難しい部類の小説だと思います。監督の力量が窺い知れます。
ノーキッキングさん
コメントを頂き有難うございます。
車窓に目をやり、佇む姿に目を留めた佐知子に悦子が声を掛けるシーンが、そういう事だったのか、と。
謎解きパズルのように、パーツがピタリと収まりそうで、収まる訳ではない、そんな作品でした。
コメントありがとうございます。
全体を覆う曖昧さ。不整合。
それが嘘なのか記憶の歪みなのか。
その霞む感じが、
A Pale View ofHills
なのでしょうか。
Paleですよね。
映画でなきゃ出来ない表現として素晴らしいと思いました。
遠い山なみの光はイシグロのデビュー作ですね。
コメントありがとうございました。
私もレビューに書いた通り、あくまでも「縄」は、悦子の悔恨の象徴だと思いますし、それだけ悔恨が根深いのでしょう。
ノーキッキングさんのレビュー、とても納得しました。
ノーキッキングさん、共感&コメントありがとうございます。
私も、悦子が景子に直接手を下したとは思っていないのですが、レビューではそのようには読めず、誤解を招く表現ですみません。該当箇所は表現を見直し、修正しました。ご示唆いただき、ありがとうございます。
コメントありがとうございます。
僕のファーストインプレッションでは、悦子の後悔と諦念がものすごく伝わってきました。
ニキは母親のそういった気持ちをうめけ止めて一区切りつけただけで、余韻たなびくラストだと思います。
コメントありがとうございます。
路面電車の長崎、美しかったですね。
広瀬すずが光と思っています。
影が二階堂ふみで、影は光に飲み込まれてしまいますね。
U-NEXTの「謎を巡る旅」という考察番組があり、
広瀬すずは上機嫌。
二階堂ふみは終始不満げに見えます。
コメントありがとうございます。
確かに、言われてみれば最初の2人のやり取りからして不自然でしたね。
カズオ・イシグロ、難しくて苦手なんですが、映画はある程度わかりやすくなっていて(あくまで原作と比較しての話ですが汗)退屈せず見られました。
共感・コメントありがとうございます。
この映画、スタッフ、キャスト共に頑張っていますが、個人的には、原作そのものがあまり映画に向かないものだった、と思っています。
共感&コメントありがとうございます。
それにしてもアイコンが怖い・・なんだコレは?!
この作品が日の名残りより前って事は相当思い入れあるんでしょうね。万理・景、佐知・悦に法則性は・・解らない。
ノーキッキングさん
コメント、共感ありがとうございます。
言葉による説明がなく映像で判断するという素晴らしい作品でした。
「嘘」が何なのか、何故、「嘘」を吐かなくてはいけなかったのか、分からない人がたくさん出ているみたいですが、原作が読者の想像に任せている作品なので監督の狙いもそこにあったような気がします。
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