「40にして成せなかったダメ男を名優:浅野忠信さんが好演技(高演技)で魅せてくれました」レイブンズ YAS!さんの映画レビュー(感想・評価)
40にして成せなかったダメ男を名優:浅野忠信さんが好演技(高演技)で魅せてくれました
著名な写真家をモデルにした映画なので、観ました。
日大芸術学部卒業の異色写真家の深瀬昌久さんは、モノトーンの象徴として、カラスの写真を撮り続け「鴉《Ravens》カラス」と言う写真集を出版し、著名になったが、
映画の中では、洋子を自分が独占した被写体として写真を撮り続けた事を、成功への階梯として焦点を当てている。
その中で、深瀬昌久さんを読み説く"切り口"として、カラスを使ってはいるが、彼を表現するには、それだけでよいのであろうか?
登場する"江戸川乱歩"風カラスと、被写体としてのカラスの同期的な結びつけとを、本人と被写体である洋子との真逆に位置する関係性として
いまひとつ描ききれていなかったのに、食滞感を残した。
深瀬昌久さんは、自分と被写体とが"主客未分"となる関係を重んじた為に、被写体であった妻:洋子との関係が 上手くいかなくなると
被写体を烏に換える。
カラスをシュールに撮り続けても、自分との距離感が埋まらない事を感じ
被写体を猫、そして自分自身に次々と換えていく事に成る。
人間には見えない紫外線が見える生物は数多く存在する。
カラスもその中の1種で、カラスの羽根には、人間には見えない"個体差が有る模様"が入っています。
その事を大学で学んだ深瀬昌久さんは
人間には見えない模様を、あえてモノトーンで撮り続けましたが、
心の葛藤として、”カラスが自分"なのか、"カラスが父親"なのかを、”カメラ”と言う共通した宿命を持った親子関係をも交えて、彼自身でも整理しきれなかった多々の関係を、もっと鮮明に打ち出す脚本にした方が、
彼のモノトーン写真に拘った事が、心の葛藤として、表現できて、深瀬昌久さんがカラスに執着した葛藤とも重なり、素晴らしいATG映画(アート・シアター・ギルド)的な仕上がりになったと考えます。
写真家をテーマにした映画だけに、光と影の撮り入れ方や、オレンジと青の照明の明暗の使い方が、絶妙に優れていました。
ちなみに、彼が写真家としていた愛機は、コンタックスRTS、ニコン F2・F3であり、洋子をマンションから望遠レンズを使って撮影していた"スナップ写真"には、ふたりの関係性がとても良く現れています。
本筋には、関係してこなかったが、要所要所に重要な位置を占めていた母から貰ったカメラは、最新鋭のカメラではなく、ドイツ・Kodak や Zeiss(Carl Zeiss)、 Agfa といった蛇腹沈胴式機械カメラでもなく、当時では古くても まだ高額であった Konica Pear であり、本作中には、ミノルタSR-1他名機が何台も"顔出し興行"をしてくるが、これは単にカメラマニアを喜ばす為のサービスカットです。
白黒写真は、赤灯下の暗室でないと、現像できないのですが、本作スタッフは
その知識がなく、2シーンとも非暗室での現像場面を本作に組み入れてしまったのは、写真家の映画としては失笑でした。
最近の戦場カメラマン映画なら「シビル・ウォー アメリカ最後の日」を観るとよいが、この作品も白黒フィルムの現像が良く理解できていない デジタル映像世代映画ではあります。
追記) 深瀬昌久さんにとっての"カラス"とは、写真と言う"宿命"です。