劇場公開日 2025年3月28日

「時間が経つほどに沁みてくる」レイブンズ TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0時間が経つほどに沁みてくる

2025年4月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

私、深瀬昌久さんについては近年、宇多丸さんのラジオで名前を聞きかじった程度。当初はその深瀬さんの伝記映画とはつゆ知らず、劇場で観たトレーラーで躍動する浅野忠信さん、瀧内公美さん等に目を奪われ、迷うことなく劇場鑑賞を決めた本作。冷たい雨が降るファーストデイ、TOHOシネマズシャンテSCREEN3はそれなりの客入りです。
マーク・ギル監督(脚本)、彼自身が監督をした作品は初めての鑑賞でしたが、少なくとも本作について言えば「見事な出来栄えおみそれいたしました」の一言。作品のルックとして昭和感も申し分ないですし、何はともあれ、日本人キャストそれぞれのいい部分が存分に発揮される演出が素晴らしく、役者たちを介して語られる言葉の一つ一つに、台詞以上の行間を感じてその世界観に浸れます。
「蛙の子は蛙」。一家の長男として、家業である写真館の跡取りを期待される昌久(浅野忠信)。日藝への進学を父・助造(古舘寛治)ににべもなく却下されますが、母・みつゑの後ろ盾もあり上京。家を継ぐどころかろくに帰郷すらせず、更には結婚も告げない始末。ただ、反発はしていても自分の写真の基礎は父からの教えが多くを占め、また「みかえす」と強がっても本心は自分の仕事を認められたい一心。ですが、頑固で酒におぼれる癖までそっくりな父子は顔を突き合せれば言い争い、終いはいつも手が出る不器用そのものの二人。後年、父に差し出されたコップ酒を手に、二人並んで立ったまま飲む佇まいは驚くほどそっくり。他人から褒められるよりも、何より父に認められたかった昌久。「昭和の長男像」が良く解る古舘さん、浅野さんお二人の演技に大変魅せられました。
そしてやはり言わずにはいられない洋子役・瀧内公美さんが魅力たっぷりこの上ない。初めて登場するシーンから本作最後のシーンまで、しなやかさ、チャーム、そして目力の強さに終始目が離せません。ミューズ「洋子」その人たる存在感、そして昌久に対する(洋子なりの)愛が溢れていて、形はどうあれ間違いなく「結ばれるべくして結ばれた二人」に強い運命を感じます。(奥山さん、これですよ。)
付け加えて一点、本作のジャンル説明にある「ファンタジー」という要素、カラスの化身「ツクヨミ(ホセ・ルイス・フェラー)」。人によっては観る前から敬遠してしまう方もいるかもしれませんが、いやいやこのクリーチャーが口下手な昌久を補完し、そして時に放つ鋭い一言は、普通の人には理解しがたい写真家・深瀬昌久という人を理解するうえで真理をついており、この作品においてとても重要な存在です。
あゝ、もう少しパッションに振った作品を想像していましたが、思いのほか人間臭くて切ない。そしてレビューを書くために作品を振り返れば、時間が経つほどに心に沁みてきます。原作である瀬戸正人著『深瀬昌久伝』も機会があれば読んでみたい。

TWDera
トミーさんのコメント
2025年4月1日

天才の思考はよく解らないのですが、写真にクスリは何かインスピレーション与えるんですかね?ビートルズや槇原ら音楽は解らんでも無いですがね。

トミー