「酒と烏と男と女」レイブンズ 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
酒と烏と男と女
深瀬昌久という実在の写真家の半生記でした。深瀬を浅野忠信が、彼の妻・洋子を瀧内公実が演じたこと、そしてイギリス人のマーク・ギルが監督を務め、さらには制作がフランス、日本、ベルギー、スペインの合作という、極めて国際色強い作品であることに注目して観に行きました。
ただ舞台装置がインターナショナルなのに対して、お話の舞台は純日本。言語も基本日本語。ただ何故か深瀬の分身である烏(英語でレイブンズ)だけが英語で喋るのが面白いところでした。この烏の設定は、ちょっとした謎でした。
実在の人物の半生記ということで、物語の骨子は事実に基づいたものだったと思うのですが、喋る烏が登場することからも、テイスト的にはファンタジーと言えるものだったと感じました。
一応、子供の時から”独り言”が多かったという深瀬の話し相手が、彼の代表作の被写体でもあった”烏”だったということになっていて、最終的に離婚されてしまった元妻・洋子から、「あれはあなたの自画像」と言われていたように、結局は深瀬の心の内奥をずっと見せ続けるという私小説的映画だったと言えるかなと思います。
内容的には、良くあるぶっ飛んだ芸術家の話で、周りを振り回しまくった挙句、酒に溺れてゴールデン街の飲み屋の階段から落ちて脳に深刻な障害を負ってしまうという結末。でも、街の写真館を経営する彼の父や弟のような”写真師”ではなく、”芸術家”として生きる道を選択した深瀬の心の動きが良く表現されていて、映画としてなかなか面白かったと感じました。
また、浅野忠信と瀧内公美が期待通りの活躍を見せてくれたのをはじめ、父親役の古舘寛治の演技は中々良く、見どころは俳優陣の演技でした。最近注目している池松壮亮が、深瀬のアシスタントを務める写真家として登場していましたが、本作の役柄としては無駄に腕が太くて笑ってしまいました。彼にはやっぱり殺し屋が似合う?
そんな訳で、本作の評価は★4.0とします。