「浅野忠信、世界へのさらなる飛躍を予感させる渾身作」レイブンズ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
浅野忠信、世界へのさらなる飛躍を予感させる渾身作
本作については当サイトの新作評論枠に寄稿したので、ここでは補足的な事柄をいくつか書いてみたい。
まず俳優・浅野忠信の魅力が英国出身のマーク・ギル監督によって存分に引き出された一本と言える。評論で触れたように監督は「殺し屋1」を観て以来の浅野のファンであり、クールな外見と内に秘めた狂気などのような相反する二面性を活かして、矛盾を抱えた写真家・深瀬昌久の人物像をヴィヴィッドに造形しているし、浅野本人のアーティストとしてのセンスも役作りに有効だったろう。
評を執筆する前のリサーチで英文記事にいくつか当たったが、“「SHOGUN 将軍」のタダノブ・アサノが主演”という紹介が多いのにやや意外な思いもした。というのも、浅野は「マイティ・ソー」でハリウッド進出を果たしたほか、マーティン・スコセッシ監督作「沈黙 サイレンス」など外国製作や合作の映画にも多数参加してきたので、すでに国際的な俳優として認知されていると(日本にいる映画ファンとしては)思ってしまうけれど、ゴールデングローブ賞の助演男優賞を受賞した「SHOGUN」がまだ枕に必要なくらいの認知度なのか、と。とはいえ、GG賞とエミー賞で「SHOGUN」が席巻したことは出演者らの今後のキャリアの大きな足掛かりになるだろうし、さらに浅野は「レイブンズ」(日・英・仏・スペイン・ベルギーの合作)での熱演も評価されて、国際的なプロジェクトからのオファーが一層増えるだろうと予感させる。
外国人監督が撮った日本の映画として、日本の人物や文化・社会の描写に違和感のない真っ当な作品に仕上がった点も評価したい。ギル監督が深瀬の写真の権利関係をクリアしたことをはじめ、鰐部洋子やバーの店主・南海(なみ)ら存命の関係者に直接会いコミュニケーションを取れたことも、登場人物らと物語の真実味に大いに貢献しただろう。監督のデビュー作「イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語」では、実はモリッシーが在籍したバンド、ザ・スミスの楽曲を使用する権利が得られず、モリッシーがバンドを組むまでの若き日々に限定して描くという苦肉の策をとらざるをえなかった。その点でも、ギル監督はこの2作目でようやくやりたいことを思いっきりやれただろうし、彼にとってもまた飛躍の一作になるはずだ。