リアル・ペイン 心の旅のレビュー・感想・評価
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変わらない関係性
先日、第97回アカデミー賞ノミネートが発表されましたが、日本では今週以降、該当する作品が毎週1ないしは2本ずつ公開されることが予定されています。
まず今週は、助演男優賞と脚本賞にノミネートされている本作。公開初日のTOHOシネマズシャンテ9時50分の回は思ったよりも少なめな客入りです。
で鑑賞した感想ですが、確かにこの2部門のノミネート、いずれも納得の作品です。特に、キーラン・カルキンの演技は素晴らしく、前哨戦からも「本命」と予想されているようですが、私も3月の授賞式で彼のスピーチが見られる(すなわち受賞する)ことを楽しみにしています。
デヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)は従兄弟ベンジー(キーラン・カルキン)を伴い、亡き祖母の母国であり自分たちのルーツであるポーランドへ。序盤の二人を見ていると「几帳面なデヴィッド」が「ちょっと変わり者でマイペースなベンジー」に振り回され続けるドタバタロードムービーを想像するのですが、いやいや「脚本賞ノミネート」をなめちゃいけません。特にポイントとなるのはこれが「二人旅」ではなく、他にガイドと3組4名の参加者が一緒の「ツアー」であること。「二人のシーン」と「他人が一緒のシーン」を代わる代わる時間経過していくなかで、二人の関係性や本質が見えてきてストーリーにみるみる深みが増していきます。
人は皆、年齢を重ねていく過程でいろいろな「悲しみ」を経験します。そしてその辛さが解るからこそ、他者の「悲しみ」に対しても我が事のように思えるようになるものです。ただ一方で、世の中には悲しむべき現実が溢れているからこそ、ある程度の「鈍感さ」や「距離」が自分を保つための必要性であったりもします。
人一倍感受性の強いベンジーにとって、デヴィッドは唯一「鈍感なフリ」を出来る気の置けない相手。そして、それを解っているからこそ、振り回されても決して突き放さないデヴィッド。お互い大人になり、距離を置く時間が長くなりつつあっても、変わらない関係性でいる二人に羨ましさと物悲しさを感じる一本。お薦めです。
ロードムービー
ポーランドをルーツにもつユダヤ人2人
ジェシー・アイゼンバーグとキーラン・カルキンが全く逆のキャラのいとこ同士
主演、監督のジェシー・アイゼンバーグはある意味日本人的、波風立てず、常に空気を読みながら生きている
相方のキーラン・カルキン、いつも出演作ではクズ野郎の役ばかり演じているが、この作品でも空気を読まず自分勝手、ポーランドのツアーでも常に問題を起こしていく
しかし、結果的に他人の印象に残り愛されるのは!?
イギリス人ツアーコンダクター役のウィル・シャープ、「エマニュエル」では全く逆のキャラで、最後まで気づかず
ツアー参加者の一人、ジェニファー・グレイ、「ダーティ・ダンシング」のヒロイン役の人!(これも全く気づかず)
ラストのキーラン・カルキンの表情が印象的 オワリ!
温かなロードムービー
従兄弟同士の2人と一緒に旅をしている気分になれる
ロードムービー。
クスッと笑えるシーンもあり、
鑑賞後は温かい気持ちになれる映画だった。
作中のショパンのピアノの音色もとても心に残った。
デヴィッドは常識的な人で温かい家庭もあり幸せそうだが、
人付き合いは少し苦手で実は強迫性障害の薬を常用している。
ベンジーの言動には時々ハラハラするけど、
同時に人を楽しませる魅力も持っていて
他人から見ると一見うらやましい生き方に見えるが、
彼も心の奥底に深い悲しみを抱えている。
2人が訪れたポーランドには私は訪れた事がなく、
ホロコーストについては
学校で習った知識でしかなかったため
帰宅後改めて調べたらとても辛くなった。
映画のレビューとは逸れるが、
自分自身が知らない事から
差別の気持ちが生まれてしまうことがある。
自分の知らない世界についても
まずは関心を持って知ることがとても大切だと思った。
現代に生きる私たちにはホロコーストの壮絶さを
本質的には理解することは出来ないのかもしれない。
それと同時に誰しも他人には見えない所で、
それぞれ計り知れない痛みを抱えているのかもしれない。
痛みには肉体的な痛みや精神的な痛みもあり
その辛さは他人のものさしでは測れず本人でないと分からない。
他人への思いやりを忘れずに生きていきたいと思った。
ポーランド行ってみたい。
いとこの魅力がイマイチ
過去の受難を通して知る今の受難
しばらく疎遠だった従兄弟のデヴィッドとベンジーが亡き祖母を偲ぶため、彼女の故郷ポーランドを旅するツアー旅行に参加し…
ジェシー・アイゼンバーグの前監督作は未見だが、地味ながらも評判が良いと聞いていた。結論から言うと、本作も地味ながらも味わい深い1本だった。
社交的で言いたい事をズゲズゲ言うベンジーに、デヴィッド同様に観る者も気が気でなくなってくる。しかしこれには事情があり、実はデヴィッドにも現代社会で生きていく事に受難=リアル・ペインを抱えている。ホロコーストを生き延びたとしても、ユダヤ人のその後の人生は受難続きなのか、と余計な勘繰りをしてしまったのは『ブルータリスト』を先に観たからかもしれない。
とにかくベンジー役のキーラン・カルキンが好演。当初はアイゼンバーグが演じる予定だったのを替えたのは、プロデューサーのエマ・ストーンのアドバイスだったらしいが、これは見事なグッジョブ。もしアイゼンバーグが演じていたらマーク・ザッカーバーグの二番煎じになっていただろう。あとジェニファー・グレイも出ていたとエンドクレジットで知りビックリ。
安直なハッピーエンドにしていないあたりも、いかにもインディペンデントな作品。
軽やかな「旅エッセイ」のようだが、とても味わい深い
ジェシー・アイゼンバーグの初監督作(『僕らの世界が交わるまで』)は未見。そして今回、ウェス・アンダーソン作品のように水平横移動するカメラワークが印象的な監督第二作は、軽妙な「旅エッセイ」のような愛すべき小品だった。
NYに住むいとこ同士のベンジー(キーラン・カルキン)とデヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)。ふたりは最愛の祖母の遺言に従い、ホロコーストの生存者だった彼女の故郷ポーランドで強制収容所跡などを巡る「ホロコースト・ツアー」に参加する——。
…こう書くと、深刻な内容を予想して身構えてしまうが、それは良い意味で裏切られる。ショパンの名曲の数々にのせて描かれる「ふたりの旅時間」は軽やかで、時にくすっと微笑ませ、時にじんわり心に沁みてくる。
その一方で、本作には、現代人が抱える生きづらさの問題だとか、日々暮らす中で目を背けがちな「20世紀最大の負の遺産」、あるいは現在の恵まれた立場からそうした「負の遺産」に向き合った際に覚える違和感などが、さりげなく織り込まれている。これらの深刻さと軽やかさが奇跡のように“同居”している点が本作の見どころだ。
ここで思い出されるのが、同じくホロコーストを題材に扱った『関心領域』だ。同作は、現実から意識的に目を背け続ける人間の暴力性や醜悪さを、まるで現代アートの“考えオチ”のように描いてみせたが、ある意味、それと対極にあるのが本作『リアル・ペイン』だとも言えるだろう。
そんな本作で特に目を惹いたポイントは3つ。
1つめは、カルキンとアイゼンバーグの演技だ。作品を成り立たせている大半は、ふたりの絶妙な掛け合いに依ると言ってもよい。
素直で表裏のないストレートな感情表現を大切にするベンジー。だがその裏返しとして、周囲の空気が読めず、こみ上げる思いをすぐ言動に出してしまう。どうやら社会からもハミ出しているらしい。そんな、軽度の多動性障害・双極性障害のフシもうかがえる難しい役どころを、キーラン・カルキンは好演している。
対するデヴィッドの方は、自らの感情と向き合うのが苦手で、自分を抑え込むことが染みついている。ここでジェシー・アイゼンバーグの“受けの演技”がまた実にいい。そんな彼が唯一、いとこに抱く複雑な想いを感情も露わに吐露する夕食のシーンは、涙があふれて止まらなかった。
2つめとして、見事な映像美が挙げられる。ショパンの調べにのせて切り取られるポーランド・ルブリン旧市街の様子は、いわば“旅行者の観光目線”を意識しつつも、決して通俗に堕することがない。古くから残る建築はもちろん、戦後建てられたであろう建物にも明るさと美しさが宿り、日々の息づかいが感じとれる。撮影監督は、スコリモフスキ監督作『EO イーオー』なども手がけ注目を集めるポーランド出身の俊英ミハウ・ディメク。だからこそのアプローチなのか、とナットク。
3つめは、アイゼンバーグ自身による脚本の妙を挙げたい。ふたりの凸凹コンビ珍道中を、派手な見せ場こそないが巧みな構成とセリフで引っ張り、まったく飽きさせない。早口で速射砲のように交わされる会話のリズム感が心地よい。事実統計に絞った話を淡々と喋り続ける「ホロコースト・ツアー」のツアコンを、ふたりとは対照的に配しているのも良い。さらにハッパ、足の指、小石、平手打ち(!)など、ささやかな仕掛けも物語の中で巧く効いている。
ところで、本作の原題 “A Real Pain”は、日本語にすると「すごく面倒くさい」「ほとほと困った」「本当に厄介」といったところか。一見、ベンジーのことを指したタイトルのように思えるが、あるいは、互いの気持ちをうまく共有し合えない主人公ふたりの関係性を象徴しているのではないか。
おばあちゃん子だったベンジー。そのおばあちゃんの足指のカタチを受け継いだデヴィッド。今後も彼女は二人の中で生き続ける。いやもっと言えば、ベンジーとデヴィッドの存在だって互いに相手の人生の中で生き続けているんだ。
ロビーに佇むベンジーはこの先、過去にしがみつくだけではなく、いとこの愛情も感じながら世知辛い現実をなんとか歩んでいけるだろうか。もどかしさとともに、そんな愛しさも抱かせるラストショットだった。
以上、「サーチライトプレミア試写会 —シネマラウンジー vol.1」にて鑑賞。
劇場で再見するつもり。
人の心に寄り添う覚悟
マコーレ似というより、大人になったラドクリフ似?
かつての天才子役・マコーレカルキンの弟、キーランカルキンがめちゃくちゃ面白くて、映画館ではずっと爆笑が続いていました。一言発するたびに"fxxkin"という言葉が入るほど品がなくて、空気読まなくて、周りを振り回して、一緒にいるいとこを限界までイラつかせるだけイラつかすけど憎めない…、そんな美味しい役どころです。
ストーリーは全然深刻じゃなく、もしツアー旅行がお好きな方なら似たような経験したことあるんじゃないかなと思いました。
それにしても北米では輪になって初対面の人に腹割って自己開示する、みたいな場が多く、私もちょいちょい参加しますが、英語でそんなに面白エピソードを語れるはずもなく、みんなの視線が一斉に向けられるのは、まあまあしんどいです。www
この作品も色んな会話が繰り広げられ、みんなこんなにいい人たちばっかりだと、旅も楽しめるでしょうが、陰キャ寄りの私には到底無理な、でも心底羨ましいと思えた旅でした。
地味な作品ですが、北米ランキング10位はそれなりにヒットしていると思います。
悲惨な歴史への向き合い方を問われる映画
鑑賞前に、2人のユダヤ人(デヴィットとベンジー)がアウシュヴィッツへ旅する話と聞き、かなり辛い内容を覚悟していきましたが、数あるアウシュヴィッツ映画に比べると強制収容所に関わる話は少なめ。(デヴィットが止める中)ベンジーが起こすドタバタ騒ぎで、本来知りたいユダヤ人の歴史やアウシュヴィッツの話から、映画が度々脱線することに観ていて苛立ちを感じましたが、そんな私は監督の術中にはまっていたようです。
鑑賞後のティーチングのなかで、監督がこの映画を撮る一つのきっかけが、ユダヤ人としてアウシュヴィッツに2週間の旅行をしたときに感じた、旅の贅沢さへの違和感にあったとコメントされていました。どうも、デヴィットとベンジーは、この旅に参加する全ての人たちが持っている、理性的な外向きの人格と感情的な内向きの人格を象徴していたようです。
2人を除くすべての登場人物は、ユダヤ人であれば、アウシュヴィッツから生還した家族の成功譚を語る事で悲惨な経験も意味あるものに変えてきた事を語りますし、非ユダヤ人であれば、広範な知識で東欧のユダヤ人の輝かしい歴史について語ります。これらは(一等車に乗る贅沢な旅も含めて、)現地を訪れることで直面する、過去の強制収容所の悲惨な現実から自分達の精神を少しでも切り離し、明日からの日常生活を守る為の正当な防御のようにも思えます。
しかし彼らは、そんな辛い現実にノーガードで飛び込んでいくピュアーなベンジーを見て、少し後ろめたさも感じている。それは、周囲に迷惑をかけ続けるベンジーに対して、彼らが寄せる愛情から感じられます。
最後にこの映画に照らして自分を考えると、まさに、鑑賞後にひたすら周辺の現代史を読みまくる事で、感情の痛みを中和しようとしていた現実に気づきます。。。映画内のイギリス人のようにガイドをすることで人の心の痛みを和らげているわけでもないのに、「昨日よりは少しマシな自分になった」と言い聞かせ、玄関に石を置いて現実生活に戻りたいわけです。そんな自分の逃げをズバリ言い当て平手撃ちを喰らわせたこの映画は、今後の悲惨な歴史を描いたすべての映画を鑑賞する上でも、自分にとって価値ある一作だったと思います。
「変人の観察が楽しい」
ナチス大虐殺 ✕ ドラメディ = ユダヤ人でない自分にとって"特別"な作品とは言い難いけど、これはよくできている。まず脚本フェチな自分には刺さりまくりな脚本がよく書けて(描けて)いるし、主演コンビが最高にハマっている。一人一人でも単体で最強なのに、2人合わさるともう最強!!
違和感から、時を超えて普遍的な痛みを伝え、描き出す。3週間違いの従兄弟ベンジーとデヴィッドを演じた、スタンドアウトした強烈なキャラをドラマ『Succession』に負けじとノリノリなキーラン・カルキンと、自分らしい役柄を演じながら脚本監督の才を遺憾なく発揮するジェシー・アイゼンバーグ(シャツの上から2,3番目のボタンだけ留める着こなし)。扱いにくくも力強く周囲を巻き込むようなカリスマ性と視点人物。それぞれ問題を抱えていて。
痛みについてのツアーとお墓に石を置く、訪れたことを示すために。痛みを通じて人を知る。それは、冷めた印象を受ける単なる事実の羅列じゃなくて、温度のある人との関わり。毎週木曜日に会いに行っていたお祖母ちゃんの足と似た足を見つめながら。見上げるという画の差異を伴う反復イメージングシステム、服の色は青・赤が逆になっている。旅の終わりが近づく寂しさもあって、感覚で捉えることの大切さも改めて。
今回の東京国際映画祭で、チケット争奪戦に敗れた『グラディエーター2』に次いで、超絶観たかった作品、そして絶対に自分の好きな作品だろうなと!!『リトル・ミス・サンシャイン』『サイドウェイ』フォックス・サーチライトのこれまた素晴らしいロードムービー!旅を一緒にしてきたぼくたちにはわかる、文脈的に冒頭とは意味が違う。
いや、マジで賞レースの脚本賞は狙える、少なくともノミネートは。あと、ミュージカル・コメディ部門のあるゴールデングローブ賞なら、脚本賞に加えて、キーラン・カルキンの主演男優賞も!本当に自分の書きたいタイプの脚本だった。
ガス室付きのマイダネク収容所
冷戦下には非常に行きにくかったそうな
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