「劣等感を乗り越える親愛の情」リアル・ペイン 心の旅 kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
劣等感を乗り越える親愛の情
同級生で人たらしのやつがいる。俺が俺がという前に出るような性格ではないのに、いつの間にか場の中心にいる。一部の人間からは嫌われもするが、好かれる人間とは強い絆を結んだりする。そんな友人に影響を受けたり、憧れたり、ちょっと憎らしかったり。でも、離れることもなく今でも関係が続いている。彼に魅了された人間の一人だから、もう仕方がないと受け入れているが、本作のような映画を観ると、あの劣等感に近い感情を思い出す。本作に登場するベンジーはまさにそんな感じ(私の友人に似ているわけではないけど)。
亡くなった祖母が昔住んでいた家を訪ねようと、ポーランドのユダヤ人のルーツをめぐるツアーに参加した2人。強制収容所を訪問するシーンがツアーのクライマックス。民族関係なく、あれだけ迫害を受けた人たちに思いを馳せるとやはり涙がにじんでしまう。
でも本作のクライマックスはそこではない(はず!)。ツアーの参加者に、ベンジーへの思いを吐露するデビッドの独白だ。自分のあの友人を思い浮かべてしまった。憎しみみたいな感情はないが、デビッドのあのセリフたちに一々共感してしまった。じゃ、ベンジーにはどうだったのか?と考えると共感できないし理解もできない自分がいた。ベンジーの思いについて明かさない作りになっていたのは意図的だったのだろう。主人公デビッドの目線で考えたらそうなんだと思う。だから、ラストシーンのベンジーが何を考えているのか全くわからないのも仕方ない。
一人の人間が生まれるということ自体奇跡みたいなもので、ホロコーストを生き残った人間の子孫となるとさらに奇跡的な運命を感じることになる。だから、その子孫である人間は自分の命を大切に精一杯生きるべきと言う(思う)人は多いはずだ。間違っていない。その通りだと思う。でも、デビッドが語るこうした言葉に生きづらさを感じてしまった。ほんの少しだけど。もしかしたらジェシー・アイゼンバーグ自身がそんな思いを抱えていて、そんなことも意図して本作を作っていたりして。もしそうならジェシー・アイゼンバーグすごいな!