「タイトルなし(ネタバレ)」リアル・ペイン 心の旅 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
デヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)とベンジー(キーラン・カルキン)はニューヨークに暮らすユダヤ人のいとこ同士。
ふたりは、先ごろ亡くなった祖母の遺言資金で、彼女の故郷・ポーランドの歴史ツアー旅行に参加することになった。
WEB広告制作で安定した家庭も持つデヴィッドに対して、他人を魅了するがエキセントリックで危うさを抱えたベンジー。
ツアーでの行動は、そんなふたりを物語っていた。
特に、ユダヤ人虐殺にからむ地への訪問では、ベンジーの行動は常軌を逸しているすれすれだった。
かれらはツアーを離れて祖母が暮らしていたポーランドの家を訪問する。
別の住人が住んでいるその部屋のドアの前に、訪れた印に石を置こうした・・・
といった物語。
ときおり常軌を逸するすれすれの行動をとるベンジーは少し前に自死をしようとしたことが中盤で明らかになる。
四十目前にして抱える生きづらさ。
センシティヴという言葉だけで片付けられないものがあるのかもしれないが、多くは描かれない。
映画全編を通じて、背景などそれほど多くは語られない。
が、多くは語られない中で、ちょっとしたこと(旅行で同じとか、飲み屋で隣り合わせとか)で知り合って事情を知ることは、日常の生活でも多い。
つまり、本作の観客は、そういう日常の隣人の立場でいることが求められている。
最終盤、自死を選ぼうとしたベンジーの左頬をデヴィッドは平手打ちで殴る。
ホロコーストの地の訪問や祖母の生家の訪問でベンジーは心に痛みを感じただろうが、お前が死のうとしたことで俺はもっと痛みを感じたのだというデヴィッドの主張。
頬の痛みのリアルな痛みは、俺の心の痛みだと伝えるデヴィッド。
ベンジー、お前を喪う方がどれだけ痛いか、わかってくれ。
そのリアルな痛みでベンジーは救われる。
演出的には、巻頭と巻末でタイトルが表示されるが、巻頭のそれはベンジーの右頬横(向かって左)に出るが、巻末では打たれた左頬横(向かって右)に出る。
簡潔な演出ですばらしい。
なお、のべつショパンのピアノ曲が劇伴以上に主張して鳴り響くのだが、ショパンがポーランド出身ということだけでなく、うるさいともいえる音楽はベンジーの心の不安定さを表しているのだろう。
ま、それにしてもうるさいことには変わりはないのだけれども。
ジェシー・アイゼンバーグ、かなり計算した演出力ですね。