「ユダヤ系ニューヨーカー、ポーランドへ行く」リアル・ペイン 心の旅 Tama walkerさんの映画レビュー(感想・評価)
ユダヤ系ニューヨーカー、ポーランドへ行く
ニューヨークに住む、中年にさしかかった二人の従弟同士が、大好きだった祖母の死をきっかけに、ユダヤ系の彼らのルーツ、ポーランドを訪ねる一種のバディ映画。一人はIT関係の職について妻と子どもと「普通」の人生を送り、ある種のニューヨークのユダヤ系男性像の典型のような、インテリでちょっと神経質なデイヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)。もう一人は、独身、職業不明、、、太陽のように明るく天衣無縫、だけど壊れそうなほど繊細な感受性を持つ、ベンジー(キーラン・カルキン)。二人は現地で、強制収容所をはじめ、ポーランドのユダヤ人関係の史跡をめぐるツアーに参加する。全篇にショパンが流れる。エチュード、ノクターン、バラード。
ポーランドの風景といったらそれこそ強制収容所とか、暗いイメージの場所以外になかなか思いつかないが、美しい田園風景や、飾り気がなく西欧に比べれば貧しい感じはあるものの平和な街並みが映されていく。そういえば現代のポーランドの風景をみたのは(ショパン・コンクールの様子を別とすれば)初めてかもしれない。
ガイド付きの観光ツアーだから危険も冒険もないし、珍道中といっても大したことが起きるわけではない。しかしデイヴィッドとベンジーにとっては、このささやかな旅は受け止めきれないほどのインパクトがあることがよく分かる。
アメリカ人である自分たちの人生と、このポーランドで生きていた祖母。強制収容所で、あるいは離散する途上で、生きて死んでいったたくさんのユダヤ人たち。・・彼らの悲劇と苦難の足跡をたどろうというのに、1等車なんか乗ってていいのかよ!そんな客観的な事実や数字だけ聞いてわかった気になっていいのかよ!おかしいだろ!というベンジーの心の叫びが、ダイレクトに伝わってくる。
キーラン・カルキンが素晴らしい。ものすごくチャーミングだけど壊れそうなほど繊細で生き辛そうな、そばにいたらとても楽しいけどその10倍くらい迷惑や心配をかけてきそうな、ベンジー。オスカー(助演男優賞)とってもおかしくない。