「誰にも言えない痛みを抱えながら、それでも人生は続いていく」リアル・ペイン 心の旅 ガジュマルさんの映画レビュー(感想・評価)
誰にも言えない痛みを抱えながら、それでも人生は続いていく
旅好きの私にとって、ようやく「観たい!」と思える映画が公開された。
40代を迎えた従兄弟のデヴィッドとベンジー。幼い頃は兄弟のように育った二人も、大人になった今ではすっかり疎遠になっている。デヴィッドは、破天荒でトラブルメーカーなベンジーに振り回されながらも、どこか羨ましく思っている。一方のベンジーは、周囲には陽気にふるまうものの、実は誰よりも繊細で、人の痛みに敏感な一面を持っている。
そんな二人が、亡き祖母の遺言によってポーランドのホロコーストツアーへと旅立つことに。歴史の重みを感じながら過ごす時間の中で、彼らはそれぞれが抱える不安や葛藤と向き合っていく。デヴィッドは軽度の強迫性障害に悩み、ベンジーもまた心に傷を抱えている。年齢を重ねることへの漠然とした不安、誰にも言えない心の痛み—それはきっと、誰にでも共感できるものではないだろうか。
人はそれぞれ違った「生きづらさ」を抱えて生きている。
「もっと大変な人がいる」と言われたとしても、自分の苦しみを他人と比べることはできない。でも、違う痛みを想像し、寄り添うことはできるはず。ショパンの旋律が静かに心を癒してくれるように、この映画もまた、観る人にそっと寄り添い、優しく語りかけてくれる。
軽妙なユーモアと、胸を打つ切なさが見事に共存する脚本。くすっと笑ったかと思えば、ふと心を揺さぶられる瞬間が訪れ、気づけば深く考えさせられている。
旅の醍醐味とは、美しい景色や美味しい食事を楽しむことだけではない。そこで生まれる出会いや経験が、私たちの心に刻まれることこそが、旅の本当の意味なのだと思う。デヴィッドとベンジーにとっても、この旅は祖母との思い出を辿るだけのものではなく、自分自身を見つめ直す時間になったのだろう。
観終わったあと、そんな「心の旅」について考えずにはいられない作品だ。