「厄介者のピエロの涙」リアル・ペイン 心の旅 Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
厄介者のピエロの涙
監督・脚本・主演を果たしているのは『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)でザッカーバーグを演じたジェシー・アイゼンバーグ。そんないろいろな才能の持ち主だったなんて知らなかった。
さほど大きな事件が起きるわけでもなく、40代のおっさん2人旅の様子が淡々と描かれるロードムービーで、ポーランドの美しい街並みを一緒に旅しているような気分にさせてくれる。ただ、強制収容所を訪れる場面では、ポーランドには行ったことがないが、代わりにポルポト時代の虐殺の様子を残しているプノンペンのトゥールスレン博物館を初めて訪れたとこのことを思い出して胸が締め付けられた。
ちなみに、劇盤は基本的にショパンのピアノ曲。そのピアノ曲が場面や登場人物の心情にマッチして、ときに楽しく、ときに物悲しく響く。
普段の日常生活から離れてみることで、自分では意識していなかった仕事や家族その他のことに起因するストレスや残りの人生に対する不安感など、いわゆる「ミッド・ライフ・クライシス」を抱えていたことに気付かされるデイヴィッド。一方、ピエロの顔に必ず涙が描かれているように、自分の唯一の理解者だった祖母の喪失以来、大きな苦しみと悲しみを心の中で抱えているからこそ、人前では過度におどけてしまうペンジー。その2人が本当に素直になれるのは、祖母が奇跡的に生き抜いた強制収容所を見学し、昔住んでいた何の変哲もない家を見てから。自分が今ここにあるのは祖先たちの存在があるからこそと感じる二人。我々アジア人のような先祖信仰を持たない欧米人でも、歴史の積み重ねで現在があるという事実の重みをやはり感じるのではないだろうか。
移民の歴史を軽んじる人物が楕円形の執務室にいる時代にこんな作品が作られたのはただの偶然なのだろうか?
なお、タイトルの「リアル・ペイン」は文字通り主人公たちが抱える心の「本当の痛み」であるのと同時に、英語で He is a real pain in the neck/ass. と言うと「アイツは本当に面倒くさい、厄介なヤツだ」という意味になるので、〈厄介者のペンジー〉をも指してもいるのだろう。