劇場公開日 2025年1月31日

「ベンジーのキャラが秀逸」リアル・ペイン 心の旅 ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ベンジーのキャラが秀逸

2025年2月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

楽しい

 対照的な性格の従兄弟同士が、亡き祖母の故郷ポーランドを巡りながら絆を深めていくロードムービー。

 このツアーにはナチスに迫害されたユダヤ人の歴史を顧みるという目的がある。こうした過去の悲劇を辿る旅はとかく重苦しいムードに引っ張られる傾向にあるが、本作はそこをユーモラスに料理した所が新鮮だ。

 例えば、ワルシャワ蜂起の銅像の前でおどけて記念写真を撮ったり、電車で寝過ごして遅刻したり、ホテルの屋上で隠れてマリファナを吸ったり等、やんちゃなベンジーと几帳面なデヴィッドのキャラクターの相違が、この旅を面白く見せている。

 ただ、ベンジーは確かに陽キャで社交性抜群なのだが、その反面、上辺を取り繕うのが苦手で何でも本音を口に出してしまう悪い癖がある。時としてその言葉が周囲に気まずい空気を作り出し、デヴィッドは尻拭いをさせられることになる。やがて彼はこの旅に参加したことを後悔し始めるようになる。
 こうした二人の衝突は後半から徐々に表面化するようになっていく。

 印象的だったのはレストランのシーンである。ここでデヴィッドは初めて周囲にベンジーに対する思いを吐露するのだが、果たしてその言葉は空席だったベンジーの耳に入っていたのかどうか?観る側の想像に委ねた演出が秀逸だった。

 旅を締め括るラストにもしみじみとさせられた。実は本作で最も笑ったのはこの場面なのだが、この笑いと哀愁の絶妙なバランスは見事だと思う。

 惜しむらくは、他のツアー客との絡みが存外薄みだったことだろうか…。典型的なユダヤ人の老夫婦、バツイチ女性、ルワンダの虐殺を生き延びた黒人男性。夫々にキャラクターは屹立していたが、90分という小品なこともあり、ドラマに期待以上の膨らみは生まれなかった。
 また、バックにショパンのピアノが流れ続けるのも、抑揚を失していて余り感心しない。もう少し抑制を利かせても良かったのではないだろうか。

 キャストでは、ベンジーを演じたキーラン・カルキンが素晴らしかった。子役時代に大ブレイクを果たした兄マコーレ・カルキンが今やすっかりタレント業みたいになっているのに対し、弟の方がまさかここまで地道に俳優業を続けているとは思いもよらなかった。今回のようなお騒がせキャラは、演じ方次第では嫌味に映ってしまうものであるが、そこを愛嬌の良さで上手く乗り切ったという感じである。

 デヴィッドを演じたジェシー・アイゼンバーグは、「イカとクジラ」、「ソーシャル・ネットワーク」からほぼ変わらずといった印象だが、こうした神経症的な演技は相変わらず上手い。
 そして、彼は本作で製作、監督、脚本も務めており、演出家としてのセンスも中々のものである。今後もぜひ作品を撮り続けて行って欲しい。

ありの