「俺だって人気者になりたいんだ!」リアル・ペイン 心の旅 きーろさんの映画レビュー(感想・評価)
俺だって人気者になりたいんだ!
まずHe is real pain.って
「ヤツにはマジうんざり」って意味なんで、
キャップにメガネの冴えないデイビッド(強迫性障害)から見た
トリックスターみたいな従兄弟ベンジー(双極性障害)への嫉妬と羨望がまぜこぜになった感情を指してると思ってて、ああそんな感じの映画ね、ってわりと余裕ぶっこいて生暖かく見守ってたわけだけど…。
事実、デイビッドは今回のポーランド行きのお金を出してくれた亡くなったおばあちゃんも生前あからさまにベンジーを贔屓してたと思ってたし、一緒にツアーを回ったメンバーも自分のことなんて印象すらなくてベンジーのことが大好きになったんだろ?と思ってる。昔からこんなに周りに恵まれているのにODで死にかけるなんてありえないし、自分が得られない幸せを手にしているのに何が不幸せなんだ?そんなわけのわからない考えは許さないって思ってる一方で、双子の兄弟みたいに育ってるんだ、お前のことを愛してるに決まってるだろ、っていう揺るぎない大きな愛情を抱えたアンビバレントなデイビッド目線で物語は進んでいく。
デイビッド目線だから、ベンジーのことを周りを明るくするわがままだけどチャーミングなキャラクターだと思ってしまいがちだけど、実際劇中で心の内を吐露できたのはデイビッドだけで(本人に直接ではなくツアー客にだけど)、当のベンジーはいつも饒舌なのに何故メランコリーで、何故死のうとしたのかは一切語っていないということ。
つまりベンジーの行動原理が映画館を出る観客にはわからない。実はここがこの映画の主題なのかなと思ったり。
先の大戦でヨーロッパを席巻したホロコーストの悲劇は、出来事としては教科書や小説、映像としてさまざまな人々に記憶されているが、そこで人としての尊厳を奪われて殺されていった老若男女600万を超える個人の言葉は伝わらないし、どんなに恐ろしいものやおぞましいもの、悲しくなるようなものを見て心が動いたとしても、結局お前らには温かい家庭があるじゃないかと。真の孤独やハイセンシティブによる恐怖や絶望への共感など知らず、愛する我が子を抱きしめられる。その幸せを噛み締めろ、と。安全なところから心配だけして行動しないまま死んでいけと(言い過ぎ)。もしかしたらあの戦争の時代に比べたら現代の悩みなんて豊かさが作り上げた幻想だぜ?ってメッセージも込められているのかも?とまで思ってしまったな。
始まりと全く同じ画角のドリー映像で、空港のロビーに集うさまざまな人々の合間からのぞくベンジーの姿。そこに入るreal painの文字。こいつがデイビッドのリアルペインなんだよな、から始まった映画が、ベンジーの内面のリアルペインに見事に意味を代えていてとても鮮やかな手法だなと思った。
なお、これと同じようなタイトルの出し方をバカリズム脚本のホットスポットでもやってて、升野さんこういうの好きよなあ、となったり。
全編で流れる素敵なショパンのピアノ曲、ああ我が祖国ポーランド!と思ったけどワルシャワ空港がワルシャワ・ショパン空港になってたのは知らなかったな。ちなみにリバプール空港はリバプール・ジョン・レノン空港な。
まとまりないけどこんな感じ。
めちゃくちゃ無理したけどファーストディ制覇は順調です。
それではハバナイスムービー!
素敵なコメントありがとうございます。とても嬉しいです。おっしゃる通りでデヴィッドとベンジーを通して自分(の中の幸せの基準)と周りとの距離感を考える映画だなと思いました。
ホロコーストレスに関しての考察、興味深く拝見しました。なるほどです。
贔屓は彼が感じる距離感でもありましたね。人たらしのベンジーだからこそだけどデヴィットにしてみれば実は羨ましく感じていて。
足をみつめるシーンには、おばあちゃんの足の形など覚えてもいなかった彼が、ベンジーと自分の差、魅力を認めつつ彼を通じておばあちゃんとの距離を縮めた時間にみえました。