劇場公開日 2025年1月31日

「ユダヤ系アメリカ人のルーツ」リアル・ペイン 心の旅 ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ユダヤ系アメリカ人のルーツ

2025年2月2日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

近年のホロコーストを題材にした映画というと、ホロコーストを生き延びた人たちに焦点を当て、当時の体験談を元に構成されたものが多いという印象だった。しかし、本作は、そういう戦争世代が主人公ではなく、その子孫であるミレニアル世代の物語であり、先祖を崇拝し、戦争を語り継ぐ一方、内省的な男同士の語り合いがメインのストーリーとなっている。監督によれば、様々な悲しみや痛みの交わりを描き出し、痛みをどう評価するべきなのかを問うことを目標としたらしい。
ニューヨークに住むユダヤ人のデヴィッドとその従兄弟のベンジーは、亡き最愛の祖母を偲ぶ意味を込めて、一族のルーツであるポーランドを訪れる。そこで第二次大戦が残した爪痕をめぐるツアーに参加する。ツアーは、ゲットー英雄記念碑、ワルシャワ蜂起記念碑、ルブリンのユダヤ人墓地、マイダネク(ルブリン強制収容所)と訪問していくが、その中で、2人は同じツアー参加者と交流しつつ、内に秘めていた感情をさらけ出していく。
監督・脚本・製作・主演を務めるジェシー・アイゼンバーグは、自身のルーツがユダヤ系ポーランド人である。本作の祖母のモデルは1938年にアメリカに移住し3年前に107歳で亡くなったアイゼンバーグの大叔母ドリスとポーランドに残った家族のうち唯一の生き残りである従姉妹のマリアの2人を合わせたものだという。アイゼンバーグは妻とともに本作と同じ目的で、2007年に実際にポーランドを訪れてマリアに会っており、映画の中で2人が訪ねる家は実際にマリアの生家だそうである。アイゼンバーグはポーランド国籍を取得するため申請を出しているくらい、自分のルーツに思いが深い。
映画に登場する早口で饒舌で神経質なユダヤ系アメリカ人男性、と聞けば大勢がウディ・アレンを思い浮かべるだろう。アイゼンバーグは、アレン監督の「カフェ・ソサエティ」で主演しているが、自身の監督第2作でそうしたキャラクターである主人公デヴィッドを演じるということは、性的虐待で映画界を追放されて不在となったアレンの立ち位置を受け継ぐ意思の表れだろうか。

ミカエル