劇場公開日 2024年11月22日

「連鎖を断ち切る」ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

2.5連鎖を断ち切る

2025年5月4日
PCから投稿

父親が暴力的だった女子が成長してつきあった男も暴力的だったという話がよくある。女性がもっている暴力へのトラウマが、暴力性向をもった男を引き寄せる「服従のフェロモン」とでもいうべきものに変換され、それを暴力的男たちが嗅ぎつける、というような仕組みがあるように思う。となれば、いったん暴力的男に絡め取られた女性は輪廻のように悪循環から逃れられなくなり、暴力をふるう男も暴力的環境下で暴力的性向をサイクルし続ける。
リリーの母親は夫の暴力に苦しみ、リリーは導入こそロマンチックだったが蓋を開けてみたら暴力的な男ライルに出会ってしまう。しかし賢く強いリリーはそれが輪廻であることを知っていたから「わたしたちで終わりにするのよ」と娘に宣言し、前を向く。
It Ends With UsのUsとはリリー自身と生まれて間もないリリーの娘のことであり、見終えてようやくタイトルの意味を知った映画だった。

恋愛ドラマを基調にしつつ家庭内暴力と精神的虐待をあつかったIt Ends with Usは、もがき苦しむ主人公を力強く描き、彼女の苦悩に寄り添うことができた一方、映画としては乳繰り合い描写がくどいし、魅力たっぷりなライルが豹変するし、元彼との再会からの板挟みになるし、展開によるストレス振幅が激しく、主題はよくわかるが、すげえ疲れる映画だった。

実直な主題とは裏腹にIt Ends with Usは派手な場外乱闘で話題になった。
主人公リリー役のライブリーが旦那のライアンレイノルズとともにライル役兼監督のバルドーニをセクハラでうったえた。バルドーニも否定してうったえ返した。
公開からしばらくこの争いに関する意見・論争がSNSとりわけtiktok上でさかんにおこなわれた。係争は長引いているが、ハリウッドナンバーワンのパワーカップルと気鋭の俳優兼監督の争いで、概してハリウッドサイドはライブリーとレイノルズに味方し、一般民衆はバルドーニ側についているという構図がみられる。

個人的憶測では産後でムラムラしていたライブリーがバルドーニをメイクアップトレーラーで一発やろうと誘ったんだけど乗ってこなかったので自尊心を傷つけられ、共同作業者兼夫兼おしどり夫婦印のライアンレイノルズとともに訴えた──という感じではないかと思う。ライブリーがバルドーニに送ったテキスト「トレーラーで搾乳中なの」も提出されている。アバンチュールしようって誘惑したのに結構ですと言われちゃゴシップガールも黙っちゃいられない。
撮影は2023年5月からはじまったが2023年2月にライブリーはレイノルズとの第4子を出産したばかりだった。この係争はキャリアが軌道に乗ったバルドーニにとって大きな痛手であり、ライブリーは魂胆ある人にちがいないが、とはいえ4人も子供産んでいる人なので責める気にならない。というわけでシンプリーフェイバーの新作が楽しみだ。

しかし連鎖を断ち切るというテーマなのに、なにしろねっとりした乳繰り合いが胃腸にもたれる。ダビデ像のような肉体美、且つ剃っても直ぐじょりじょりしそうな濃いバルドーニの顔立ち。あまりに小杉なので兄弟役にインド系とおぼしき人を充てているが、バルドーニはイタリア系とユダヤ人の両親をもつそうだ。そんなバルドーニもバルドーニで、産後でムラムラしているライブリーを誘惑し過ぎ。初対面からやりたいとか言うし、しつこいのなんの。結果じゅうぶんに一発やりたいという気にさせてしまっているので、セクハラでうったえたくなるライブリーの気持ちはわからない、でもなかった。
imdbは公開当初は7を超えていたと記憶しているが6.3に落ち着いている。RottenTomatoes54%と89%。

そんなに単純なことではないが、往往にしてパートナーとなる人物が暴力的かどうか解らないことによってDVがおこるので、暴力的性向をもっているか・いないか確認できるアプリを開発したら有用で実益もあるように思う。いくつかの質問などで、自分や相手にそれがわかる仕組みのアプリができないものだろうか。精度を上げ、アプリ使用を拒むことが暴力的性向の持ち主であることの証左になるような。

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津次郎
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