「良い夫婦の日に公開されるDV映画なのだが、DVがどこで始まっているか気づける人はいるのだろうか」ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
良い夫婦の日に公開されるDV映画なのだが、DVがどこで始まっているか気づける人はいるのだろうか
2024.11.23 字幕 MOVIX京都
2024年のアメリカ映画(130分、G)
原作はコリーン・フーヴァーの小説『It Ends With Us』
過去に傷を持つ男女の出会いと別れを描いた恋愛映画
監督はジャスティン・バルドーニ
脚本はクリスティ・ホール
原題の『It Ends With Us』は劇中のセリフで「ふたりで終わらせる」と言う意味
物語は、花屋を開くことを夢見ているリリー(ブレイク・ライブリー、若年期:Isabela Ferrer)が、父アンドリュー(Kevin McKidd)の葬儀のために故郷のメイン州プレソラに戻ってくるところから描かれて始まる
母ジェニー(エイミー・モートン)と再会したリリーは、葬儀での弔辞を頼まれた
だが、いざ壇上に立つと言葉が出て来ず、逃げるようにその場を去ってしまった
その後、ボストンに戻ったリリーは、とあるアパートの屋上にて、取り乱していて椅子を蹴飛ばしている男と遭遇する
彼は脳外科医のライル(ジャスティン・バルドーニ)で、手術がうまく行かずに嘆いていたと言う
二人はその後も会話を交わしながら、それ以上を求めずにその場を離れることになった
数日後、ようやく物件を見つけたリリーは、店舗の清掃を始めていく
そんな折、前の店主の求人広告を見たアリッサ(ジェニー・スレイト)が働きたいと言い出す
やむを得ずに一緒に店を準備することになり、夫マーシャル(ハサン・ミンハジ)と兄を交えて食事をすることになった
そして、リリーはアリッサの兄としてライルと再会することになったのである
映画のテーマは「DV」なのだが、テイストはハーレクイン的なラブロマンス映画になっていて、骨子は「トラウマを抱えた者同士の恋愛」となっている
三角関係のようなテイストで、ライルと元カレ・アトラス(ブランドン・スクレイナー、若年期:Alex Neustaedter)との間で揺れるリリーと言う感じになっているが、実際にはライルの暴力性とその自己弁護がどのようにして起こり、それが女性を傷つけるかを描いている
映画的には都合の良い存在と元さやになっていくので、DVに対する啓発的な意味合いがかなり薄味になっていた
エンドロールでは「DV相談窓口へのメッセージ」などがあるし、日本の公開は「11月22日(良い夫婦の日)」というプロモーションもかけている
だが、映画の宣伝から「DV映画」と言う雰囲気は感じられず、気軽にカップルが観る映画になっているし、某スマートパスの推奨映画になっていたりと、どの層に訴求しているのかよくわからない
内容としては、潜在的にDV被害に遭っている女性に向けたもので、前時代的な「愛があるから耐える」ではなく、「娘と共に強く生きていく」と言うものを強調している
その層に伝われば良いのだが、それを感じさせるにはもう少し工夫が必要に思えた
いずれにせよ、キャラ設定がメロドラマテイストになっているし、監督がイケメン脳外科医で登場するし、どこまで本気で原作と向き合っているのかわからないところがある
DV被害者としての告発と、このような決意で戦って連鎖を断ち切ると言う意識を描いているのだが、それがダイレクトに伝わりづらいようにも思う
女性監督が撮れば雰囲気も違うと思うのだが、それは能力云々ではなくて、原作に描かれている「女性の決意」と言うものを描き切れているかどうかと言う難題に直面するからだと思う
監督が男性なので、自己弁護に走る突発的な嘘のシーンはリアルなのだが、その見せ方が上手いかどうかは何とも言えない
また、一度の過ちと言うふうに捉えられがちなライルの言動だが、その根底にある「映画で一番登場するセリフ=やめて」の背景にあるものを理解しないとダメなのだろう
そう言った意味において、DVの根源が普段の男女間のパワーバランスにあって、それをリードした際に本当に起こっていることに目を向ける必要があるので、それをちゃんと描き切れているのかは微妙と言わざるを得ないと感じた