「終わり方がなぁ…」ファーストキス 1ST KISS natsukiさんの映画レビュー(感想・評価)
終わり方がなぁ…
松たか子と松村北斗の魅力満載の映画。
ファンの方にとっては最高の作品だし、むしろ新しいファンが増えるくらいでは。
松たか子演じるカンナが過去にタイムスリップして若い頃の夫と出会うというものなので、年の差があるキャスティングなわけだけど、そんな年齢の差も、何度も年上の女性であるカンナに恋に落ちる駈も気にならないくらいふたりの相性がよく、自然で心地よい空気が映画全編に溢れていた。
「どうしたら夫が死ぬ運命を避けられるのか?」
そこがストーリーの肝であることは理解しつつも、過去を行き来することでゆっくりゆっくりと、夫を失ったことへの喪失感や生前見逃してきた愛情に向き直っていくカンナの姿がより印象的だった。
タイムスリップというファンタジー要素に包まれているけれど、すべてカンナの妄想でした、と言われても納得してしまいそうになるくらい、彼女の自己セラピー的な側面も強く感じた。
ふたりで過ごしてきた長い時間の中で忘れてしまったこと、諦めたこと、傷つき傷つけたこと、後悔したこと、失ったもの、逆に自ら手放したもの、そんなやりきれない全てを見つめなおしていく心の作業。
辛く孤独なその作業を軽やかに、どこか可笑しく、そして必死にやり切ろうとするカンナがとても愛らしくて、時々笑ってしまうのに泣きそうになる、そんな不思議な気持ちになった。
だからこそ最後の終わり方を残念に思ってしまった。
夫が死なない未来を必死に探し出そうとするカンナが、最後のタイムスリップで若い頃の駈に自分の正体や過去に戻ってきた理由、ふたりの未来について話す。
「たとえ死ぬことになっても…」とカンナと一緒に歩む未来を選んだ駈と最後の時を過ごして、未来に戻ったカンナ。
そこから映画は駈の目線に移り変わり、離婚や自身の死の未来を知った駈が今度はカンナと幸せな結婚生活を送っていくシーンが続く。
結果として彼は自分の信念を曲げずに小さな命を助け、やはりカンナの元から去ってしまう訳だが…。
もちろん、駈が最後に残した手紙にはグッときたし、彼の死を避けることはできないんだろうなぁと何となく予想できていたし、何よりふたりが今度こそは幸せな結婚生活を送れたことはすごく良かったのだけど…だけど、それじゃあ元の時間軸のカンナはどうなったんだろう?と思わずにはいられないのだ。
観客はずーっと、愛を無くして夫を失った時間軸のカンナを見守って応援してきた。
だからこそ、最後のタイムスリップを終えた彼女のその後が見たかったし、見せるべきだったと思う。
夫が死ぬという未来を明確に変えることよりも、彼との愛を見失わない未来を選択し、そして一縷の望みを彼に託したカンナが戻った未来。
その未来はどう変わっていたのか?その変わった未来を彼女はどう受け止めたのか?
そして受け止めた先のカンナの心は?
駈は変わらず亡くなっていただろう。でも、一人帰ってきた部屋にベッドはきっかり一台で、トースターのプレゼントが届いていたり、カレンダーに旅行の予定が書き込まれていたり、ふたりで遊んでいたであろうゲームが残されていたり、お揃いの靴下があったり、沢山の笑顔の夫婦の写真が壁に飾られていたかもしれない。
そして、本来のラストと同じように駈からの最後の手紙を見つけるかもしれない。
それらを見た時、実際の思い出はなくとも、カンナの心は大きな愛に満たされたんじゃないだろうか。
そしてそこでやっと彼女の心の旅は終わりを告げるんじゃないだろうか。
という理由で個人的には元の時間軸のカンナを最後まで見たかった。
その後に、若い頃のカンナと二度目のはじめましてをして、恋に落ち、結婚し、一緒に生きていく駈の姿で締めくくったら………とか、お前クリエイター気取りかよ?みたいなうざいことをエンドロールを見ながら考えてしまったりとかした。
でもそれくらいどうしても元の時間軸のカンナの最後を見たかったんだ~~。
ただ、とにかく主演のおふたりが素晴らしかった!!
最後のタイムスリップで「君と結婚できないのは嫌だ」の言葉に思わず顔を覆って泣くカンナとかものすごい心に来たし、「こりゃ恋に落ちるよ」な駈の誠実なキャラクター性も最高だった。
ジリジリとした真夏の質感や、最初の方のケーブルカーの時のふたりの撮り方も切なさに満ちていてとてもとても好きだった。
坂元裕二特有の台詞回しがちょっと個人的に合わないなと思ってしまうところもあったのだけど、総じて切なくて愛らしい観てよかったと思える映画だった。
※教授の娘がわざわざ訪ねてきて「幸せだったのか?」とか言い始めた時は「カンナがやらないなら私がやる!」とぶん殴ってやりたくなったけど。あれはどんな夫婦関係であれ伴侶を失った人間にかける言葉ではなく、ものすごく残酷な行いをする女だなと思った。
人の感想に突然意見しないでいただけますか?私は私なりの想いを抱いて書いたまでです。あなたの映画への考えがあなただけのものであるように、私の映画体験は私だけのものです。とても不快な気持ちになりました。
ぜひパンフレットを買って読んで欲しいです。
そして、もう一度見て欲しいです。
ラスト、元の時間軸のカンナも手紙を読んでいます。
15年分の初恋をして、15年分の会話をして、ファーストキスもしました。
そうして戻ってきた「変わらない世界」で餃子を焼く前に戻ってきたカンナは前と変わらないでしょうか……余韻も楽しむ映画だと思います。