劇場公開日 2025年1月24日

「“田舎でスローライフ”に憧れる意識高い系に冷や水を浴びせるシニカルな社会派ホラー」嗤う蟲 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0“田舎でスローライフ”に憧れる意識高い系に冷や水を浴びせるシニカルな社会派ホラー

2025年1月26日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

「嗤う蟲」に決まる前の映画の仮タイトルがずばり「村八分」だったとか。そう、これは日本に大昔からある因習、共同体の掟やならわしに従わないものを仲間外れにして無視したり精神的に追い詰めていくという、現代の学校や職場でのいじめにも脈々と受け継がれている集団の暗い特質をテーマにしたホラー映画だ。

村八分を題材にした映画としては、1938年(昭和13年)に岡山県で起きた「津山三十人殺し」に着想を得た横溝正史の小説「八つ墓村」の映画化、2013年(平成25年)に起きた「山口連続殺人放火事件」に着想を得た吉田修一の短編を映画化した「楽園」などが思い浮かぶ。いずれも実際に起きた惨事をもとにしているのがポイントで、つまりは現実に遭遇しうる恐怖や悲劇である点が、心霊や超常現象やエイリアンに襲われるフィクションよりよほどおそろしいと言える。

若い夫婦が田舎でのスローライフに憧れて僻地の麻宮村に移住してくるというのが今どきだろうか。夫(若葉竜也)は脱サラして無農薬農業を始め、イラストレーターの妻(深川麻衣)はPCとネットで在宅勤務。二面性がおそろしい自治会長(田口トモロヲ)、隣家の暗い夫婦(松浦祐也と片岡礼子)もそれぞれ印象的だ。

本作にはまた、止まらない少子化と長引く不況で地方の過疎化がますます進み、もはや真っ当なやり方ではどうにも立ち行かなくなっている現状を映す社会派の視点もある。麻宮村の結末がどうあれ、この現実から逃げ続けることはできない。

高森 郁哉