劇場公開日 2025年1月24日

「地縁と血縁と社縁」嗤う蟲 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0地縁と血縁と社縁

2025年1月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

難しい

田舎者の自分が言うのもなんだが、
人口の少ない地方ほど世間は狭いし閉鎖的。

新しく入って来た者には基本冷たく当たり、
よそ者とのレッテルは剥がれず、
暮らし辛いこと、この上ない。

噂は高速で広まるし、
お節介や老婆心とは体の良い言葉で、
内調や懐柔の手段の一つに思えてしまうのは穿ち過ぎか。

「郷に入っては郷に従え」は処世術も、
予めそこに住んでいた人たちを基準にした格言なのは明らかで、
新参者の立場など考えてはいない。

そうした田舎の思惑が極大化した時に起こるのが、
本作でも描かれているエピソードの数々。

もっともこの村には、他にも裏があるよう。

ただそれは「麻宮村」との村名や、
前半のかなり早いタイミングで挿入されるワンカットで
鑑賞者はあっさりと見当がついてしまい、
コトが露見しても、
なんの驚きも無いのだが。

『上杉輝道(若葉竜也)』と『長浜杏奈(深川麻衣)』が移住した村へは
一本の長い橋を渡る他に道は無い。

外部からは隔絶され、
自治会長の『田久保(田口トモロヲ)』が村民からの信奉を集めると共に
専横を極める。

彼に睨まれれば、
村内で生きるのが難しい村八分に。

外に出ようとしても、通じる道は一つのみ。
封鎖されれば袋の鼠。

『田久保』が権力を持つようになったのは、
それなりの理由があるよう。

とは言えほとんどの村民は、
彼が全てを仕切ってくれることに安住し、
思考停止に陥っているのも事実。

顔色を窺い、事無かれの姿勢が官憲にまで及んでいることで
その地位はより強固なものに。

不承不承ながら朱に染まろうとする『輝道』と、
抵抗する姿勢を崩さぬ『杏奈』の対比が魅せどころ。

中途までは〔シャイニング(1980年)〕思わせる展開も、
あっさりと翻して見せる。
周囲に教えを請い、手助けしてもらわねば成り立たない農業を生業とする者と、
ネットで外部と直接に繋がっている者との違いが
取り込まれるか否かの境目かもしれぬ。

腹に一物あるのに、それを隠すような笑顔や、
ころころと豹変する村人の態度が不穏な空気を醸す。

神経を逆なでする音楽も流れるものの、
{ホラー}や{スリラー}とのカテゴライズは当たらない。

あくまでも日本の各所で実際に起こっている悲劇を扱った
社会派の一本と見る。

『輝道』と『杏奈』の間に男児が生まれたことに
我が事のように喜ぶ村人たち。

何十年かぶりに村で生まれた子供だとしても、
はしゃぎ過ぎに思える。

地縁も無いし、血縁も無く、
ましてやたった一人では。

アメリカでの「出生地主義」のように
「社縁」を期待しているのなら怖すぎる。

ジュン一