「シャマランの大味なトラップ」トラップ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
シャマランの大味なトラップ
お馴染みシャマラン劇場。
今回の斬新ユニーク設定とはったりと驚きのどんでん返しは…
ズバリ言うと、無かった。
けど、近年の『ノック』や『オールド』と比べるとシンプルに面白かった。
シャマランにしては珍しいストレートなサスペンス。でも、ちょい変化球。
愛娘の為に大ファンのアーティストのプレミアチケットを手に入れたクーパー。
娘ライリーの頭の中は“ヨロコビ”や“カナシミ”じゃなく、そのアーティストの“レディ・レイヴン”の事でいっぱい。終始ウハウハ。
クーパーは消防士。親子仲は非常に良く、理想の父親。
父と娘、水入らずの最高の休日デート…になる筈だった。
ライヴ会場はすでに人でいっぱい。
クーパーは不審な点に気付く。
あちこちに監視カメラ。やたらと警官や警備員配置の厳重体制。
人気アーティストとは言え、物々し過ぎないか…?
ライヴが始まってもそれは変わらず。時々観客が警官に質問されたり、連れて行かれたり。何かあったのか…?
クーパーはひょんな事から親しくなったグッズ販売スタッフから超秘密事項ながら聞き出す。
この会場に、巷を騒がす指名手配の切り裂き魔“ブッチャー”がいるという。
その情報を手に入れた警察やFBIはある秘策を。
このライヴ自体が“罠(トラップ)”。誘い出し、いるのは確か。袋の鼠にし、特徴や目撃情報から絞り込み、観客の中から見つけ出すのだという…!
誰か、何処に潜んでいるか分からない切り裂き魔。
突然の魔手からクーパーは娘を守る事が出来るか…?
…なんてのをシャマランがそのままやる訳がない。
クーパーは動揺。実はクーパーこそ、その切り裂き魔であった…!
映画は見る側が主人公の視線になって、いかにして犯人の魔手から逃れるか、娘を守り抜く事が出来るか、犯人に立ち向かうかという所を、本作は主人公がまさかの犯人。
よって、いかにして警察の監視の目から逃れるか、娘や周囲に気付かれず、どうやってこの会場から脱出する事が出来るか、逆説視線なのがユニーク。
罪人は捕まり裁かれなくてはならないのに(しかも今、人質を一人ある場所に監禁している)、何故か犯人=主人公の立場になっちゃう。
出入口全てに警官が配置され、必ずチェック。ただでは出られない。
なので、一般出入口は無理。ならば、別の出入口。
会場スタッフに成り済ましたり、カードキーを盗んで、舞台裏へ。そこから抜け道を探す。警察やFBIや関係者が集まり、情報収集。
頭がキレるクーパー。ある秘策を思い付く。アーティストを利用。
レディ・レイヴンのライヴでは観客の中から“夢見る少女”が一人選ばれ、ステージに立って憧れのスターと一緒に歌い踊る。舞台裏にも案内される。
クーパーは関係者の中からレディ・レイヴンの叔父に接触し、直談判。難病を乗り越えた娘を“夢見る少女”に。
晴れて選ばれたライリー。憧れのスターと夢のような時を過ごし、最高幸せの絶頂。
一見、娘の為に尽力する良き父親。でも実際は…。このピンチを抜け出す為にあれやこれや奔走。その為には娘やアーティストすらも利用する保身一心。
関係者出入口から外へ。ところが、逮捕に執念を燃やすFBIはそこでも該当男性を厳重にチェック。ここも危うくなった。
しかし、もうそこから出るしかない。パス出来るのはレディ・レイヴン関係者のみ。
クーパーは大胆な行動を。
レディ・レイヴンに自分の正体を明かす。
スマホで今監禁している人質の動画を見せ、自分たちを関係者として一緒に外に出せ。さもなくばこの人質を殺す。
選択迫られたレディ・レイヴン。従うしかなかった。
まんまと警察やFBIの“トラップ”をかいくぐり、外へ。
凶悪犯が捕まらず、世に放たれ…否。もう一幕、大胆過ぎる展開に。
犯人視線云々ではなくとも、単純にサスペンスとして設定なども面白味やスリルあり。
娘思いの優しい父親である一方、本性は凶悪犯。ジョシュ・ハートネットが両面見せる巧演。
シャマランもレディ・レイヴンの叔父役でいつもながらちゃっかりワンシーン出演。何とレディ・レイヴンは、シャマランの実娘!
自分色やファミリーも出し、良くも悪くもシャマラン映画。
そう。“良くも”はエンタメ・サスペンスとして面白いが、“悪くも”はツッコミ所満載。
クーパー一人を逮捕する為にライヴ自体を“トラップ”にするとは幾ら何でも大掛かり過ぎ。
レディ・レイヴンや関係者やスタッフは了承済み。だけど、そうとは知らず訪れた観客たちって…。“トラップ”だけど、一応本当のライヴでもある…?
クーパー、ライヴ中にうろうろし過ぎで逆に不審。よく怪しまれず舞台裏に入れたもんだ。
タイトルにもなっている“トラップ”だけど、もっと何か仕掛けがあると思いきや、後は特にナシ。地道に探すだけ。これって名案…? ただ手間隙掛かるだけ…?
警察もFBIも何だかお間抜け。序盤でクーパーに秘密を喋っちゃったスタッフも然り。
バレちゃいけないのに、早々とクーパーに気付かれ、バレ、意味ないじゃん!
結局クーパーを取り逃がし。
そしたら、ただのお飾りだと思っていたレディ・レイヴンが大胆行動。
専用リムジンに乗せ、あなたたちの家を見たい。
今日一日信じられない事ばかりのライリーだが、またまた。レディ・レイヴンが家に来る…!
しかし、クーパーは警戒。
終盤はまさかまさか、レディ・レイヴンがたった一人でクーパーに立ち向かう…という意表を付いた展開になるが、そうとは言え、ライヴを終えたスターが警護も付かず、ファンのお宅突撃訪問!…なんてある?
母親も弟も大喜び。一曲サプライズして、仲良くなった所で、一瞬の隙を付いてレディ・レイヴンはクーパーのスマホを奪う。
トイレに立て籠り、人質に呼び掛け、目印になるようなものを特定し、それをSNSで伝え、情報と保護を。警察やFBIも向かう。
クーパーはブチ切れ。家族の前で化けの皮を剥がされ、正体も明かされ…。
人質は保護。クーパーは逮捕。事件は解決。
ハッピーエンドなんだけれど、大胆展開にちと唖然。シャマランよ、計算し尽くされた演出や構成はどうした…? 娘ヨイショ感も半端ねぇー。まあ、そんなヘッポコさも含めてシャマラン映画なんだけど。
警察やFBI視線ならば一件落着。クーパー視線ならばゲームオーバー。家族視線ならば…。
夫/父親が凶悪犯と知って衝撃…。特にライリーに至っては、最高の一日から大転落。ひょっとしてバッドエンド…? これで頭の中に“非行”なんて感情生まれなければいいが…。
逮捕されたクーパー。が、手錠を外し、ニヤリ。続編…?
最後の一幕がウケた。家に帰ってニュースを見るグッズ販売のあのスタッフ。
俺、やっちまった~!