劇場公開日 2025年2月7日

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「誠実で丁寧な物語」誰よりもつよく抱きしめて おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0誠実で丁寧な物語

2025年2月9日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

幸せ

予告から、切ないラブストーリーを期待して、公開2日目に鑑賞してきました。客入りは思ったほど芳しくはなかったですが、誠実に作られた素敵な作品でした。

ストーリーは、学生時代からの恋人同士で同棲している、絵本作家の水島良城と書店員の桐本月菜は、良城の抱える強迫性障害による潔癖症のために触れ合うことさえできずにいても互いに理解し合って穏やかに生活していたが、月菜の前に恋を知らない韓国人青年・ジェホン、良城の前には同じ症状に悩む女性・村山千春が現れ、二人の生活に変化が訪れるというもの。

冒頭から強迫性障害をもつ良城の生きづらさとともに、彼に寄り添う月菜の献身的な姿が描かれます。知識としては知っていた強迫性障害ですが、こうして映像で見せられると、何気ない日常の一コマですら心を擦り減らしていることがリアルに伝わってきます。ここに24時間寄り添い続ける月菜の姿にとてつもない愛を感じます。互いの気持ちをいたわりながら、温かな生活を営む二人を心から応援したくなります。

それでも、多少の我慢や無理を重ねてきたことで、わずかばかりのストレスがたまっていたであろうことは想像できます。ジェホンや千春の登場が引き金となって、ためこんでいた思いがつい出てしまったのも無理からぬことだと思います。それでも、言っていることは間違ってはないのだけれど、正解でもなかったように思います。時と場と選ぶ言葉さえ違っていたら…と思わなくもないです。そんなすれ違いから関係がギクシャクしていく様子に胸が苦しくなります。それぞれの思いに共感し、さらにモジャの物語に重ねながら進む二人の物語に強く惹きつけられます。

ただ、後半は月菜の心がジェホンに揺れ動くように見えてしまい、やや残念です。良城にとっての千春は、悩みを共有できる単なる同志のような存在で、(もちろん良城の無神経な言動はアウトですが)そこに恋愛感情はなかったと思います。月菜が勝手に嫉妬心を抱いていただけでしょう。でも、月菜のほうは違います。良城の悩みを理解してあげられないという思いと、自身の思いが良城に届かず、満たされていないという思いがあったのでしょう。そのため、表面的には否定していても、心のどこかでジェホンに何かを求めてしまったのだと思います。

そんな月菜の心情も十分に理解できるし、共感もできるのですが、これにより、後半はよくある三角関係のような構図になってしまったのは残念です。月菜がジェホンに傾きすぎるのは、ちょっとノイズに感じます。また、いつの間にか良城が立ち直ったのも、ちょっとモヤっとします。見方を変えれば、距離をおくことで共依存のような関係を脱し、それぞれが自分の力で生きる道を手に入れたとも見えます。でも、できれば、最後の最後まで強迫性障害に立ち向かい、それを乗り越える二人の姿で描き切ってほしかったかなとも思います。

主演は三山凌輝くんと久保史緒里さんで、二人ともアイドルとは思えないほど自然な演技ですばらしかったです。脇を固めるのは、ファン・チャンソンさん、穂志もえかさん、永田凜さん、北村有起哉さん、酒向芳さんら。

おじゃる