墨攻 : 映画評論・批評
2007年1月30日更新
2007年2月3日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にてロードショー
様式美に頼らない骨太なアジア合作映画
相変わらずアジアの国境を越えたコラボレーションが盛んだ。派手な様式美が売り物の“無国籍風オリエンタル絵巻”に食傷気味の筆者としては、むしろアジア各国のローカルな良作を観たいと願う。というわけで中国・日本・香港・韓国合作の「墨攻」もさほど期待せずに観賞したが、これは歯応えのある1作だった。
アンディ・ラウ扮する主人公、革離(かくり)は、紀元前5世紀の中国に実在した思想集団、墨家に属する人物。彼は戦闘のプロフェッショナルなのだが、他国への侵略を否定する墨家の教えに従い、徹底した守備戦術で10万人もの敵の大軍勢に対抗していく。この設定からして、現代に通じる反戦テーマを読み取ることができよう。敵の動きを先読みし、巧みなトラップで城内への侵入を許さぬ革離の獅子奮迅の活躍ぶりは、胸のすく爽快さだ。
あからさまにCGを駆使した奇抜な仕掛けに頼らず、城壁を挟んだアナログな合戦シーンに力を込めたことで、娯楽歴史活劇としてのスケール感と迫力を確保。ただし若手美人女優ファン・ビンビン演じるヒロインの存在が明らかに浮いており、革離との不必要なラブ・シーンなどが映画の流れをいちいち止めてしまうのはいただけない。それでもアンディがヒロイズムを抑えて好演する孤高の軍師が、戦功報われず苦い運命をたどるドラマには、テーマの本質からぶれない作り手の気概がうかがえる。おそらく製作過程は困難の連続だっただろうが、多国籍クルーの意思統一、そしてジェイコブ・チャン監督の良心が、このアジア合作映画の成功の要因と見る。
(高橋諭治)