配信開始日 2025年2月6日

「80年代にこんな異様な事件が起こっていたなんて」オーダー 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.080年代にこんな異様な事件が起こっていたなんて

2025年4月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

80年代初頭のアメリカでこんな異様な事件が起きていたとは。かの国で白人至上主義が勢力を増す現代と重なるものがあるかどうかはわからないが、2024年8月にヴェネツィアでお披露目された本作は終始ザラリとした手触りで、ジュード・ロウ演じるFBI捜査官が至上主義団体から派生したテロ集団を追う。時折、苦悶の表情を浮かべる彼にはどうやら痛みを伴う過去があるらしい。しかしそんな細部はわずかな逸話として語られるのみ。この物語は脇道に逸れることなく、ダークなカリスマ性を帯びたニコラス・ホルトが巧妙な言葉で人々を焚き付け、対するロウはその核心へと執念深くにじり寄っていく。名匠カーゼルの作品ならではの殺伐とした空気感も健在で、それらを背景に発火する現金強奪や銃撃戦シーンには骨太な見応えが詰まっている。不気味なのは「ターナーの日記」という赤い書物が今なお影響力を持ち続けているらしいこと。ザワつく余韻を残す秀作だ。

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牛津厚信