「正義VS悪、から正義VS〈正義〉」オーダー 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
正義VS悪、から正義VS〈正義〉
AMAZON MGM作品
FBIと白人至上主義者集団との闘いを描く作品でありながら、
その様相は単純な正義と悪の対立に留まらない現実として観る者に迫る。
本作は、銀行強盗や若者の暴走といったレベルの題材ではなく、
FBI、アーリアンネーションズといった国家レベルの組織犯罪を扱う作品である。
その規模感は、
例えばマリア・シュラーダーやトム・マッカーシーといった社会派作品を手がける監督たちが扱うテーマと匹敵し、
かつてのスコセッシ、イーストウッドといった巨匠たちが挑んでも不思議ではない意欲作と言えるだろう。
劇中で白人至上主義者が子供たちに「ターナー日記」を読み聞かせる、
子供向けに印刷・販売されているコミュニティの存在が示される。
この事実は、人種差別という問題の根深さ、
解決の難しさを暗示し、
観る者に絶望感を与える。
しかも、これが実話であるという事、
トランプ支持者たちにも通じている側面もあるという事実に、
その衝撃をさらに増幅させる。
「スーパーマン」のレックス・ルーサー役に抜擢されたニコラス・ホルトが、本作では差別主義者のリーダーを演じる。
このキャスティングは、
米国内の現実として単なる正義と悪の対立では捉えられない、
複雑なテーマを暗示しているといえなくもない。
ジュード・ロウ扮するFBI捜査官は、
強盗グループの行動に何か〈規律〉のような気配を感じ取る。
この事実は、彼らが単なる犯罪者集団ではなく、
何らかの信念に基づいて行動していることを示唆する。
正義対悪の闘いが、
正義対〈正義〉の闘いに変質していく。
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