「グァダニーノ版「ベニスに死す」」クィア QUEER talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
グァダニーノ版「ベニスに死す」
映像と音楽がGOOD❗️美術セットがとにかく良くて、南米の街の店の前の二人の立ち姿はそのまま美しい絵。切り取って持ち帰りたいほどだった。何気なくも繰り返されてスパイスのような効果を醸し出していた小道具(ベッドマットレス、しわくちゃ白リネン、CAMELの煙草、ライター、マッチ、灰皿、チェス、グラス、拳銃、靴、小瓶から直接飲むビール、眼鏡 etc.)、二人の手と指と異なる爪の形、そして衣装。リーは前半はずっと白ベージュの麻スーツ、よれて汚れもついている。ユージーンはシャワーを浴びたばかりのような清潔と若さと美を纏っている。とりわけヘアスタイルとうなじに目を奪われる。リーだけでなく観客の心も掴んだ(と思う)。演じるドリュー・スターキー、大変だったと思う、そして情けないリーを演じきったダニエル・クレイグ、次の段階へジャンプ!最高のキャスティングだった。
リーはジーンに一目惚れ(その瞬間のダニエルの表情は最高)してから思春期の少年のような目でずっと彼を追う。リーの視野にジーンが入った途端にリーの心が悶え切ないのが辛くもあり可愛くもあった。ジーンに触れたい思いを妄想する。相手はつれない。こっちを向いてくれたと思ったらあっちへ行ってしまう。二人の距離感が絶妙だった。
後半は二人で南米へ。リーの目的はエクアドルにあるという「ヤヘ」探し。リーはヤヘからテレパシーの力を得たい。そんな力があれば、いつもその場限りで終わる関係の繰り返しや、相手がクィアかどうか悩むことも、自分がクィアであることの複雑な思いと孤独からも解放されるかも知れない。ヤヘは植物学のコッター博士(レスリー・マンビルだと全然分からなかった!彼女の演技の幅はとてつもなく広くて上手い!)によれば「鏡」。前半でリーとジーンが映画館デートで見るのがコクトーの「オルフェ」。ジャン・マレー演じるオルフェがまさに鏡の中へ手を入れる美しいシーンが映った。(そっか、時代は1950年代、「オルフェ」は1950年公開の映画、当時の「今」の映画を二人は見たのか!と気がついた)
前半と後半では色合いがかなり異なる。メキシコシティが舞台の前半部の方が、二人の出会いと駆け引きがあり、音楽・音響、光と影、ホテルの長い廊下など映像の点でも美しくて乾いていて好みだった。ヴィスコンティの「ベニスに死す」同様、老いた男の心と体をかき乱すユージーンを見るだけでも価値ある映画だと思う。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。