「梁が折れてもビルは崩れない、のか?」ブルータリスト ざむざむさんの映画レビュー(感想・評価)
梁が折れてもビルは崩れない、のか?
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アウシュビッツから逃れて、米国に移住した建築家のラースローと妻は、実業家ハリソンの支援を受けて、コミュニティセンターの設計を依頼される。多様な人種が融和する合衆国の理想を体現する施設となるはずだったが、資金の緊縮や地元の宗教団体への優遇、そして不慮の事故などに工事が阻まれ、完成までには十年を費やしてしまう。
後年、彼の個展でセンターの構造が紹介されたとき、ラースローは妻を失い。自身も自分の足で立つことができなくなっていた。ナレーターはこの建造物がアウシュビッツの構造を模したものであること。高い位置に天窓が設置され、苦しみと差別から逃れる道筋を示しているのだ、と説明する。
インターミッションのある長尺映画だが、最後のエピソードに向かってすべてのシーンが美しく配置されており、評価の高さに見合った作品だと思う。
ただし、現在の社会情勢を考えると説得力を持ち得るだろうか?
ホロコーストの否定と、暴力を受けた者の回復という揺るがしがたいテーマはこの映画の柱石で、そこが疑わしさを感じると、すべてに疑念をいだかざるを得ない。高評価する米国内外の専門家がほどんどこの問題をスルーしていることに恐ろしさを感じる。
倫理感の問題で葬られた傑作は多い。
真逆の意味での「関心領域」に思えて仕方ない。
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