劇場公開日 2025年2月21日

「◇アメリカモザイク社会と建築物の構造」ブルータリスト 私の右手は左利きさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5◇アメリカモザイク社会と建築物の構造

2025年3月2日
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鑑賞方法:映画館

 世紀のお騒がせ男-トランプ大統領は連邦政府が新設する建物は「人々の称賛を集める」古典主義建築が望ましいとする「美しい連邦公共建築(Beautiful Federal Civic Architecture)」と題された大統領令を発令しました。自らの趣味を押し通し、ブルータリズムやポストモダン建築のデザイン性を否定するような独断的大統領令に対して、米建築家協会は全面的反対を表明しています。

 この映画の主たるモチーフである"ブルータリズム"は戦争と深い関係を持った建築様式でもあるようです。コンクリート打ちっ放しの幾何学的直線から成り立つデザイン。第2次世界大戦で荒廃した都市の復興の際、予算が不足していてもコンクリートは容易に安価に調達可能であり、大量に均一的に入手されたコンクリート建築には、短い工期で建設可能というメリットもありました。

 主人公の建築家、ラースロー・トートは、明るい未来への希望を抱いてヨーロッパから渡米したユダヤ人です。しかし、理想やあるべき姿を明確に抱いた彼の設計姿勢は、アメリカの気まぐれな資本主義的妥協の産物社会の中で、大きく蛇行し取り止めもなく迷走を始めます。

 多種多様な民族の寄せ集めであるアメリカ移民社会の特徴は、究極の相対主義なのかもしれません。多種多様な宗教や主義主張、民族的人種的な価値観の相違を越えて、資本(お金)こそが客観的な正義なのです。

 215分という上映時間。100分(前半)+15分(休憩)+100分(後半)という建築物のように整然とした構成。建築家の天井高へのこだわりの種明かしを聞かされる結末に、この作品が独りよがりの建築家の伝記だけにとどまらずに、これからのアメリカ社会におけるそれぞれの生き様についての問題提起であると痛感しました。四角い部屋で分割されたコンクリートの教会は、人種や宗教、性別や貧富の差によって細かく分断されていくアメリカ社会を象徴するものでもあったのです。

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私の右手は左利き