劇場公開日 2025年2月21日

「期待度◎鑑賞後の満足度◎ 久しぶりに実に(正に)映画らしい映画を観た印象。一人の建築家の半生がスペクタクルとしてスクリーンに刻まれている。エイドリアン・プロディは好きな顔ではないが名演。」ブルータリスト もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0期待度◎鑑賞後の満足度◎ 久しぶりに実に(正に)映画らしい映画を観た印象。一人の建築家の半生がスペクタクルとしてスクリーンに刻まれている。エイドリアン・プロディは好きな顔ではないが名演。

2025年3月1日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

①210分という長尺だから覚悟して観に行ったけれども少しもだれるところがなく画面に引き込まれた。
昔の長い映画の様に「INTERMISSION 」を設けてくれたのも良かったのかもしれないが、それが逆効果になって冗長な映画はる可能性もあったのに、ならなかったのはやはり監督の演出の力量だろう。

②全編をユダヤ人であることの影が消えない雲の様に覆っている。
昨今の欧米や中近東の映画を観ていると、もはやユダヤ人問題に絡まないものが少数派になっているように思われる。
本作も冒頭のナチのホロコースト(完全なる自由の剥奪)から始まり、アメリカに来てもユダヤ人、ユダヤ教に対する白人(キリスト教徒)の声には出さない差別・偏見に陰に陽にさらされ道を塞がれそうになり、真の自由は得られない。
その生きづらさから姪は新しく出来た母国「イスラエル」の地へと旅立っていく。ロシアの捕虜収容所でもアメリカの大富豪の庇護のもとにあっても頑なに口を噤んでいた彼女がユダヤ人にとって自由の国である「イスラエル」に旅立つ時には(そしてラストも)饒舌になっているのが象徴的である。

③ハリソンに「何故、建築家になった?」と問われた時の返答、「時代がまたおかしな時代に戻っても建物はその美と思想を遺すものだから(だったかな?)」(またまたナチみたいな狂った連中が出てくる時代になったら壊されるんじゃない?という危惧が喉まででかかったけど)、ホロコースト時代の完全な自由の剥奪、自由の国アメリカなのに強いられる不自由さ、それがエピソードの姪のスピーチで一気に繋がる。
アメリカで最初に設計した「コミュニティーセンター」が強制収容所と同じスケールだったという事実、ホロコーストで完全に奪われた自由、アメリカでの鎖に繋がれた自由、ナチ収容所と同じスケールで作られた建物に設けられた“自由への窓”“太陽光で作られる十字架”…
新しい「コミュニティーセンター」は本当の自由への“希望・渇望”と、ナチに完全に破壊された美と思想とを未来に遺したいというトートの思想を体現するものだったということが最後の最後で分かる構成。だからあれほど建物の寸尺に拘泥したのも頷ける。

④フェリシティ・ジョーンズもいよいよ本格的な女優になってきた感じ。

⑤アレッサンドロ・ニボラも最近あちこちの作品に出てくるようになって若い頃から注目してた私としては嬉しい限り。そのうちアカデミー賞助演男優賞でも取ってくれないかな。

⑥エイドリアン・ブロディは、ダニエル・デイ=ルイスが引退した今では欧米の映画で最も演技力のある男優トップに立ったかも。

⑦ガイ・ピアースも好演だが、大好きな『プリシラ』のイメージをまだ引きずっているので(私がですよ)ちょっと変な感じ。

⑧個人的には、ああいった角角したデザインの建物は好みではないが、まあそれは映画の出来とは違うので。

もーさん