劇場公開日 2025年2月21日

「壮大などんでん返し」ブルータリスト 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5壮大などんでん返し

2025年2月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

毎度お馴染みのナチス物。今年は「リアル・ペイン 心の旅」に続いて早くも2本目でした。
そんな本作の特徴は、何と言っても3時間35分というインド映画ばりの上映時間の長さ。近年劇場で観た映画の最長は「アイリッシュマン」の2時間29分、続いて「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の2時間26分だったので、恐らく自己最長記録と思われます。ただそれら2作は休憩なしのぶっ通し上映だったのに対して、本作は途中15分の中入りがあり、トイレの心配もなく観られたのは幸いでした。

肝心の内容ですが、ハンガリー出身の実在のユダヤ人建築家であるラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)が、ナチスの迫害を逃れてアメリカに渡り、そこでも辛酸を舐めながら自分を貫き通して建築家として名を残すまでの半生を描いたものでした。
ペンシルバニアに辿り着いたトートは、最初従兄弟を頼って本職の建築の仕事を始めたものの、客からのクレームというか契約違反が原因で金を支払って貰えないという理不尽の結果、従兄弟とも決別。その後は日雇い仕事で糊口を凌いでいたところ、以前クレームを付けて来た大富豪ハリソン・ヴァン・ビューレン(ガイ・ピアース)に建築の才能を見出されてビッグプロジェクトを任される。でも芸術家気質の主人公は周りと調和が取れず、大富豪とも最終的に決裂。
また、後半になってヨーロッパに取り残されていた妻エルジェーベト・トート(フェリシティ・ジョーンズ)が姪っ子とともにようやく再会を果たすものの、夫婦仲はしっくりしなくなっていく悲劇。それでも妻は最後まで夫の側に立ち、寄り添っていたのがせめてもの救いでした。最終的に建築物が完成し、ラストは一応ハッピーエンドでした。

以上、祖国でもアメリカでもぶっ叩かれて半ば精神的におかしくなってしまった主人公・トートの物語でしたが、とにかく音楽や映像が特に素晴らしく、筋や役者の演技を際立たせていました。トートが作ったマーガレット・ヴァン・ビューレン・コミュニティーセンターの造形美は、画面を通してすら荘厳さが伝わってくるほどで、また大理石の採石場の場面なども、まるで異界に行ってしまったような浮遊感があって素敵でした。主演のエイドリアン・ブロディの演技も真に迫っていたし、彼を称賛し、嫉妬し、蹂躙した大富豪ハリソンを演じたガイ・ピアースの”アメリカらしさ”を地で行く演技も良かったです。

前述の通り、途中15分程の休憩を挟んでくれたことや、物語の展開が非常にテンポが良かったこともあり、3時間35分の長丁場も案外あっという間でした。

で、最後までトートが実在の人物だと信じて疑わなかった私ですが、鑑賞後に入場時に配られた「建築家ラースロー・トートの創造」という冊子を読んだら、なんと「本書の内容は一部を除きすべて架空の内容です」とのこと。まんまとブラディ・コーベット監督に騙されてしまうという壮大などんでん返しに、非常に驚いた次第です。

そんな訳で、本作の評価は★4.6とします。

鶏