劇場公開日 2025年2月21日

「自由と奴隷は紙一重の違い」ブルータリスト ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自由と奴隷は紙一重の違い

2025年2月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

難しい

昔の長尺モノは
インターミッションが設定されている作品も多かった。
そして、その途中休憩の間に趣向を凝らす場合も。

例えば〔レッズ (1981年)〕。上映時間は194分。
場内が明るくなると〔インターナショナル〕が流れる。
まさしく作品に合致した楽曲。

一方、直近で観た〔聖なるイチジクの種〕は
167分あっても設定はされていない。

そして、本作。
15分のインターミッションを入れて215分。

で、その間には、作品の一場面を象徴する
結婚式の家族写真がスクリーン上に投影され、
デジタルタイマーが時を刻む。

音楽や効果音は流されるものの、
もうちょっとの工夫は欲しかったところ。

タイトルの〔ブルータリスト〕は
「ブルータリズム」の建築家の意。

鉄筋コンクリートを多用した無骨で機能的な造形が特徴で、
1950年代に流行した。

主人公の『ラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)』は架空の人物も、
ハンガリー系ユダヤ人で
モダンなデザインを確立した「バウハウス」で学んだ建築家との設定。

「バウハウス」は勿論、ナチスにより閉校されている。

『ラースロー』はホロコーストを生き延び、
アメリカに渡る。
しかし、妻と姪は欧州に留め置かれたまま。

富豪の『ハリソン(ガイ・ピアース)』の知遇を得、
彼からの依頼で大規模なコミュニティーセンターの建設に挑むが
多難が次々と襲う。

嵩む建設費や資材を運搬している列車の事故。
施主の『ハリソン』に振り回され、
工事は度々の延期や中止の憂き目に。

しかし、『ラースロー』は自身の報酬を注ぎ込んでも、
憑かれように建物の完成を目指す。

酒と麻薬に溺れながらのその姿は、
鬼気迫るとの表現がピンと来るほど。

冒頭、移民船がエリス島に着き、
客室から甲板に出た主人公が目にするのは
何故か逆さまになった「自由の女神」像。

その意図するところは何か。

自由の国、誰もが成功者となれる可能性のある国は、
必ずしも万人に開かれているわけではなく、
社会的な差別や偏見が厳然と存在し
『ラースロー』はそうした悲哀も味わう。

とりわけパトロンとの関係性は
終生彼を苦しめる。

最後のシークエンスで
彼が心血を注いだ「マーガレット・ヴァン・ビューレン
コミュニティーセンター」の設計思想が明らかに。

小さい部屋を幾つも作った理由、
天井高の訳、
異様さを感じる四つの塔の背景、
地階の廊下で建物を繋げた思想、
何れもが、ナチスの迫害に起因していた。

一人の男の伝記ドラマと共に
反ホロコーストの意匠も潜めていたことが、
言葉を以ってして我々に伝わるのだ。

ジュン一