「お見事な人生」マックス・エルンスト 放浪と衝動 sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
お見事な人生
大学の頃の課題以降、自分が絵を描く際に、いわゆるモダンテクニックがうまく使えた試しがないのだが、本作を観ながら「そりゃそうだよな」と納得させられた。
デジタル技術の進歩でコラージュは誰もが当たり前に使えるようになったし、フロッタージュは小学生も図工でやって遊ぶし、デカルコマニーも図工や美術の授業で扱う先生もいるだろう。
でも、技法はあくまでも技法。問われるのは、偶然に目の前に現れた形や色に、自分の中から湧き出る何と結びつけて表現するかなのだ。自分にとってその必然性がなかったのに対して、エルンストにとっての戦争の影響や彼の中の鳥のモチーフの意味なども描きつつ、そのイメージの湧き出し方の唯一無二さが、観る側に、彼の制作風景や作品を通して伝わってきた映画だった。
シュルレアリスム100年映画祭ということで、いくつもの作品が公開されていたが、自分が観ることができたのは、公開最終日の本作のみ。でも、エルンストが、オートマティスムの一つのフロッタージュを獲得していく場面や、後のポロックなどのアクションペインティングにつながったと主張している、穴を開けたペンキ缶を紐でつって揺らすオシレーションの位置付けなども、よくわかり、おもしろかった。
それから、彼が描く森や大地は、ずっと彼の中の幻想的な心象風景という印象をもっていたのだが、アメリカのグランドキャニオンなどの映像を観ると、強烈なリアリティがその裏に存在していることもわかって興味深かった。
やっぱり、表現は、その人を取り巻く環境の積み重ねによって立ち現れてくるのだなぁということも思った。
とにかくこのエルンストという人は、エネルギーに満ち溢れていて、尊大で、自由で、お見事な人生だったのだなあと。
きっと生活が苦しい場面もあっただろうが、いい年の重ねかたをしたことが、彼に刻まれた表情から見てとれた。
付け加えだが、エルンストのアトリエに、カルダーのモビールが飾られていたのを確認して、自分なりにちょっと納得。
コメントありがとうございます! ちゃんと絵をされていた方にいただけて恐縮です……ほんとあんな生活いっぺんでいいからやってみたいなあ(笑)。僕が阿佐ヶ谷で観た時も20人くらいお客さんがいました。よい特集企画でしたよね。あと、「実は強烈なリアリティがある」って話、僕もすごくそう思いました! ふつうはデカルコマニーありきで作られた風景画だって思いますもんね。まさかあんなに「アリゾナの見たまま」だったなんて(笑)