「どうしてこの邦題に?」国境ナイトクルージング sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
どうしてこの邦題に?
誰が邦題を考え、ゴーサインを出したのかがとても気になる。中国でのタイトル「燃冬」、英語のタイトル「The Breaking Ice」なら納得の内容が、邦題でテーマが明らかに曖昧になり、ボケてしまった感じがもったいない。
確かに描かれている場所は、北朝鮮との国境付近の、中国の国内では辺境の地だし、登場人物たちも望むかどうかに関係なく、そこに流れついた訳だが、「国境」かどうかにそれほど重大な意味があるのだろうか。それに「中国に居ながらソウルみたい」と言われるらしい延吉市などの独特な街並みがロードムービーのように案内される展開もあるが、それも全然メインじゃないと思う。ましてや、長白山(北朝鮮や韓国からすると白頭山)への旅について、邦題によって、北朝鮮と中国の対比や対立を意識させてしまうのはミスリードもいいところ。
それぞれに行き詰まりを抱えている3人の若者たちが、数日間関わり合ったことを契機に、曲がりなりにも一歩を踏み出そうとするストーリーから考えると、素直に原題通り「燃冬ーThe Breaking Iceー」でよかったのに…というのが自分の意見。
映画については、まず、主演のチョウ・ドンユィ(「少年の君」「サンザシの木の下で」など)が、大人の女性になったなぁと感動。
内容面では、3人それぞれの行き詰まりのどれかにピッタリ共感できる経験は持ち合わせてないのだが、それでも、自分が二十代前半から半ば辺りに感じていた「思ってたのと違う」という、それまで描いていたイメージと現実のギャップに対する漠然とした不安やモヤモヤを思い出させられた(それも、嫌な感じではなく、どちらかというと甘酸っぱく)。
加えて、希死念慮は度々描かれるものの、こういう言い方は適切ではないかもしれないが、生死を安易にスパイスにしておらず、好感が持てる。
また、中国というのは、思いの外多民族国家なのだと気付かされると共に、驚くような発展をとげてきているのだなと思いしらされた。
ただ、今の中国の経済状況に疎い自分にとっては、劇中に何度か象徴的に登場する万引き常習犯の懸賞金の意味が今一つつかめず、ちょっと悔しい。
分かる方、またご教示ください。
共感、コメントありがとうございます。チベット民族のみならず朝鮮系民族も中国国内での立場は高いとはいえない、自治州とはいえ中央からの幹部にすっかりコントロールされている状況です。おそらくそのあたりを監督は本当は描きたかったのだけどこれが限度なんでしょうね。タイトルもそうだけど、主人公達を皆、朝鮮系ではないのは検閲への配慮かと。でも国境の街の閉塞感は間接的な表現だけど描かれていると思います。あの万引き常習犯もそう。あれはおそらく朝鮮系の犯罪者で捜査や裁判のあり方が人権侵害であることを示しているのだろうと思います。ぼかしてぼかしているので分かりにくいですが。