「ちょっぴりチープさを感じるVFX」国境ナイトクルージング TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
ちょっぴりチープさを感じるVFX
「カンヌ出品作品」と「チョウ・ドンユイ出演」という2点で鑑賞を決めた本作。今回もそれ以上の情報を入れずにサービスデイのヒューマントラストシネマ有楽町へ。11時45分からの回は客入りも程々といった感じ。
「生き辛さ」や「ここではない感じ」を抱えながら日々を過ごす若者たち。ある日3人(男2人と女1人)が出会い、つるんで過ごす数日の話。どこか既視感を感じながら観ていた途中、「ああ、これ、あれだ」と三宅唱監督・脚本、佐藤泰志原作の映画『きみの鳥はうたえる』を思い出しました。勿論、ストーリーは全く異なりますし、「男2人女1人」構造の映画はおそらく星の数ほどあるでしょう。とは言え、若者特有の不安定さや、やや寂れた街の様子、そして、音楽の使い方と時折に光や色とりどりの照明で幻想的に見せる画で「若者×エモ味」な印象を前面に押し出す感じ等々、作品性としてはかなりの共通点があるように思えます。これは別段、私の思い過ごしか、偶然か、はたまたオマージュかを気にしているわけでなく、そしてまた比較をしているわけでもありません。むしろ、これらの感じをよく描けているだけに、(新作として)脚本はもう一歩「思い切り」が足りないように感じられるのがやや残念。私の好みとしてはもう少し、切迫感ややるせなさを感じる展開や演出、例えば韓国映画のような意地悪さが多少あってもよかったかな、と。ただそれだと、アンソニー・チェン監督(製作、脚本)作品ではないのかもしれませんね。思い起こせば『イロイロ ぬくもりの記憶』も常に現実的で、最後は優しい映画に仕上がっていたし、たぶん、この線こそがこの監督らしさなのでしょう。
と言うことで、点数は少し辛めにつけていますが全く嫌いではありません。チョウ・ドンユイも頑張ってたし。あと、ちょいちょい挟み込まれる「ちょっぴりチープさを感じるVFX」も、何ならこの作品にはよいバランスとなっている気がします。映画が終わり下りのエレベーター後方、初老のご夫婦の奥さまがしみじみ「(雪山のアレ)、凄かったね」と仰っているのが聞こえ、またほのぼのと。こういうのもいい映画体験の一つですね。(ただ、隣に走る上りエスカレーターには、これから観る方が乗っているのでご注意下さいまし。)