「観客に委ねるストーリー」国境ナイトクルージング 豊島区のはずれさんの映画レビュー(感想・評価)
観客に委ねるストーリー
全部を見せてくれる映画ではありません。観客自身が映画を見て、それから感じたものをプラスして完成する映画だと思います。なので、物足りないと思う人もいるでしょうね。
週刊文春の評価が高かったのと、知り合いの中国人に延吉出身の朝鮮族(朝鮮半島がルーツの中国人)がいるため、興味があって見てみました。
冒頭の通り、映画だけでは十分ではない部分を、見た側が感じたもので補って、ようやく完成する映画だと思います。最近、映画やドラマに、伏線回収ということを求めることがありますが、この映画で気になるシーンが、その後、伏線回収されません。気になったシーンがどういうことなのかは、観客自身で考える必要があるでしょう。なので、見た人によって、違っていることもあるでしょうね。更にしばらく経って思い返して、また違うことに気づくかも知れません。
キーワードは「氷」。映画に出てくる彼らは、いろいろな事情で、延吉の冬の気候のように、心も体も硬く固まってしまって停止していたのが、3人が知り合い、反応し合うことで徐々に溶けていき、次に進むことができるということの比喩ではないかと。
延吉とその周辺の地域、その地域に住んでいる人(朝鮮族)、長白山(白頭山)について、少し知識があった方が、状況がすんなり理解できるでしょう。通常の字幕は中国語のセリフ、< >の中の字幕は朝鮮語のセリフという区別がありますね。披露宴で歌って踊る曲は、北朝鮮で有名な歌「お会いできてうれしいです」(パンガプスムニダ)です。基本北朝鮮と繋がりのある地域ですが、昨今の韓流ドラマやK-Popの影響で、韓国に親近感がある部分が描かれているのも興味深いです。
リアルな中国だなと思ったのは、手配書がいっぱい出回っているのに、誰も気にしていないところ。逆にリアルでないと思ったのは、地方都市の青年シャオが、小綺麗でオシャレなところ。
ちなみに、朝鮮族の知り合いの話だと、彼が子供の頃、まだ改革開放以前の延吉よりも、北朝鮮の方が物資が豊富で、北朝鮮側の親戚のところへ川を渡って、気軽に遊びに行っていたそう。