「道を究めんとする者達」エストニアの聖なるカンフーマスター うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)
道を究めんとする者達
およそ50年前、ソ連支配下のエストニア。『神が与えた別の運命』に導かれたラファエルが、己の道と信じるメタルカンフーを極めるべく地元の修道院に密かに伝わる修道院カンフーを体得しようと門を叩く物語。
エストニアの青年のハングリーな日々を、遥か遠い中国のカンフー、西側の強烈な自由さを象徴するメタルミュージックによって彩った物語。カオス感漂うイントロではあるが、ブルース・リーが冷戦時代から続く反共産のアイコンだったり、体制に弾かれた人々が世を離れて修道院に住んでいたりと、現実の要素が盛り込まれているためか意外に地に足の着いた世界観だった。
本編にも、修行の一環として武道に励む求道者、花の咲く庭の大樹の下での修行、見習い同士のライバル関係、権力へ恭順しない人々、世俗の誘惑…、と少林寺を始めとする修験系カンフー映画を思わせるエピソードが多数あった。
路傍で名もなき人の導きによって不思議なことが起こる点や、ふらりと現れたラファエルが修道院で奇跡を起こす点、ラファエルと関わる人々が彼との邂逅で自分の道を確かにする点など、昔話や寓話を彷彿とさせる物語には妙な味がある。
奇抜ではないストーリーラインと奇抜なラファエルの個性・強いのかそうでないのか怪しいメタルカンフーが意外に良いバランスを保っていた。
舞台が修道院で修道院カンフーが正教の教えをベースにしているため、宗教賛美を感じる人もいるかも知れないが、あくまで心身を鍛えるためのものであるという修道院カンフーのポリシーは武道の教えに通じるものがあった。人の有り方と協調と寛容を説くという意味では、古くから人々の秩序として採用されてきた教義の根幹部分と武道の親和性は高いのかもしれない。